業界独り言 VOL151 M嬢からの緊急メール

今春の暖かさは、例年にはないものがある。春分の日だというのに、既に桜前線が通過となっている。春二番の風が嵐の様に吹いているので蕾までもが飛んでしまいそうな勢いである。三月が期末であるメーカーにとっては、開発の追い込みが生産出荷という段階で大詰めとなっている。システム機器の場合には、ようやく構成品が揃い工場で組み上げとなるからである。実際の機器はお客様の納期から逆算されて手配が為されていて機器費用の利子支払いなどにも厳しいのが最近の状況でもあるからだ。無線機器の応用システム開発に携わる知己であるM嬢から悲鳴のメールが届いたのである。「WindowsNTのシステムでDataBaseへのアクセスが毎回出来たり出来なかったり・・」

Quad社という仕事の枠には、Windowsをシステム商品として納入するような仕事の範疇からは、ちょっと離れてしまっている。五年前にはプロセス改善活動に繋がるような草の根ネットワークを構築したりして初期のWebDBシステムの実験などをしていたこともあった。Quad社に転籍してからは、会社内での電子メールとML(メーリングリスト)ならびにイントラネットのサーバーシステムなどとの連携で6000人あまりの社員が情報共有をして開発や生産、そして支援活動をしている。通信プロトコルの標準化活動をしている人は世界中の地域に根ざしたローカルな委員会活動や世界各地で開催される標準化委員会に出席して作業をしている。

新機種のチップが開発されるロードマップが提示されると、付随する複数のMLが立ち上がってくる。メーリングリストは会社のサーバーで運用されているのでフラットに参加が出来る。参加するのには、イントラネットで、そのMLをphで検索してMLの内容を確認して「・・・のチップコア開発に関しての討議グループ」などと書いてあるのを確認して、自分がそのMLに参加する目的を主張する書き込みをしてリスト管理者に参加要望を送る。ここまでは全てWebで行なわれる。リスト管理者からの参加許可はメールで返却されてくる。許可されれば以降メールが次々と送られてくる。MajordomoなどのMLツールから次々と送られてくるようになる。

こうしたメーリングリストに参加していくことでどの分野では誰が詳しいのかというのはメーリングリストを読んでいけば判るようになる。昔のNetNewsと基本的には同じ流れといえる。メーラーソフトを製品として提供している会社でもありNewsよりはMailということになってきたようだ。情報管理という目的でもメーリングリストは管理しやすい方法だといえる。外部に公開しているメーリングリストもある。支援窓口のメールアドレスである。投入された質問は発信者のメールアドレスから許認可されて受け付けられる。お客様との間での契約に基づいて回答できる技術内容が決まっているからだ。日本のように協力会社が開発の主体として動いているような形態との整合性は、その意味では難しい。契約されている会社に窓口を置かれたりして集中管理したり、あるいはその会社でメーリングリストを作成したりして管理したりするというのが解決策とも言える。

Quad社の場合には6000人規模の会社なので日本の大手電器メーカーの仕組みとは比べることは出来ないかもしれないのだが同様な仕組みを構築しても手間自体は変らないだろう。但し、事業部間での競走や情報管理という観点でITサービスを提供する仕組みが成立するのかどうかは判らない。電器メーカーとして多くのSE部隊を擁してシステム受注などに走っている中ではノウハウが蓄積されて知識データベースに照会を掛ければたちどころに答えが出てくる・・・はずはないらしい。問い合わせのM嬢からのメールの発信元は、彼女の緊急事態を見かねて知っていそうな知識袋として東川を知る人間からメールアドレスを入手してのアクセスだったようだ。といっても困っているのを見かねた周囲の仲間からだったのである。当の本人はトラブルの渦中に埋没しているのである。

無線システム開発件名という仕事自体が基本となる無線機器事業がデジタル化で偏向するなかで、残された事業分野として事業統合されたりしつつ実態としては知っている人たちからは隔離されて仕事上の付き合いの無いほかの事業分野のシステム件名担当達との合体事業部にかわってきたことも理由の一つであったようだ。外から見ていると判らないのがこうした実情であり恐らく内部の事業部を運営しているトップ達も認識していないことであろう。日常の業務で関連しない人たちを同じ技術部に統合しても名目のみで物理的な配置なども含めたり、交流するインフラやそうした活動を支える牽引者、伝道者といった人が必要なのだろうか。
外部の東川から見れば、WindowsNTで様々な件名開発をこなして神の御技ともいえる手法で解決してきた仲間達が居ると思いもするし、合併した事業部自体は日本で初めてMSDOSマシンを開発した会社でもあったはずで歴史から考えてもそうした人材が内に存在していることは明白なのだが・・・。数ある情報があってもGooやらYahooなどの検索エンジンたる組織あるいはインフラがないと情報は活用できないようなのだ。個人個人がそうした情報リンクを拡充していくことは大変なのだろうか。検索エンジンとして利用されていた人たちの多くは自分達でそうしたことを困り相互扶助することを常にして情宣活動などをしてきたキャラクターの人たちであった。

開発ノウハウなどを情報として集約してきた成果はかつては、ファイルの参照のみであったし最近ではデータベースとしてホームページで検索できるような仕組みは用意したという自負もあったのだが、実際に生きた情報を蓄積活用していくということには絶え間ない活動が必要となるのだろう。そうした活動の中途で戦線離脱してしまった責任は東川自身にも思い至るので、少し内容に首を突っ込まざるを得ないと感じたのである。まずは、その会社の中で活動が閉じるようにするためにはどんな情報を与えたらよいか。また、そうした人物が居ない場合には、与えられた問題について先輩として与えられるアドバイスはないか。といった点が思いつくままにメールやWebのアクセス検索などをあいまに行なっておいたのである。

どうも利用しているデータベースが外国製品のBtreeベースの物であり最近では日本の取り扱い業者が取り扱わなくなったディスコン商品だったらしいこと。但し、開発元の会社はそのまま運用していてホームページからFAQや知識データベースにアクセス出来るようになっていることなどが判った。開発段階で元々利用してきたおそらく以前のシステムからの継承を図るなかで、構成ソフトウェアのサポート状況などについて更新確認が出来ていなかったのではないかと思ったりもする。また、開発元の情報が英語である為にその内容を確認したり問い合わせができないという事情が見えたりもする。落ち着いてシステム開発をしていく為にはLinuxなどに移行したほうが良いという意見や活動もかつてしてきたことはうまく伝わらずに開発効率などに寄与できていなかったという反省などが次々と思い浮かんだのである。

前者の策として、問い合わせを回送してしまった先のH君はシステム開発部隊から転籍して携帯電話の開発に勤しんでいる状況になったばかりなので状況は不明ではあったのだが、実際にモチベーションは以前にもまして高く以前の自分達の困難な状況で思い考えてきたテーマの一端として解決の為のアイデアや手なづけ方をメールと電話でやり取りしてくれたらしく解決に結びついたようだった。技術者のネットワークが機能することでこうした事例は解決できるというのは、やはりプロセス改善活動という永い取組みが必要なのだと思う。そうしたことに掛けるコストは失敗した製品の回収とかそういった費用と比べればはるかに安く済むということを認識はされてはいるようなのだが・・・。実際に何をしたら効果があるのかを具体的事例に基づいて提案するといったサイクルを回し始めるためには鶏と卵の問題に陥る前に自ら動き始めるということが必要なのだと改めて思い返した。

期せずして、解決をみるなかで、M嬢の組織を横に束ねる新しいGMとなるK君から食事の誘いがあった。彼もまた、プロセス改善活動の意義を知るものであった。K君には、このトラブルでのやり取りを知らせていたので春からの新体制という中で自分が取組もうとしているアイデアの一つとして着地してほしいものだ。弔事で帰社して通夜に訪問した足で彼と食事をするなかで意見交換をすることができた。「機が熟してきたようだ・・・。」とは双方が交わした感想である。機は熟したとしても、料理していくのは大変なのは変らない。問題は確実に達成していくためのビジネスモデルの構築があってのことなのだろう。そうした戦略知略を暫く練りつつ新しい体制を迎えて欲しいものだ。「新たな体制に移ってからは一度表敬訪問しなければね。」とK君にエールを送った。

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