業界独り言 VOL167 仕様書通りでは繋がらない

3GPPと呼ばれる一連の規格に基づく壮大なシステムが離陸しようとしている。実際に離陸するのか失速するのかという意見もあるのだが必要性のあるシステムならばスムーズに立ち上がるだろう。開発リソースの限りを尽くして取り組んできたメーカーも音を上げて最終コーナーで乗り換え案内を立ち尽くして見ている風景にも出会う。IMT2000と称して次世代通信としてもて囃されてきたシステムの実像は、どこか国際標準とはいいつつも欧州のシステムであることに疑いはない。

国際化システムというよりもGSMをCDMA化したシステムであり、特許問題を逃げようとしてきた歴史により作られてきた袋小路のような印象である。開発の主体は、欧州であり先頭集団で走ってきた国内通信キャリアの一連隊が途中で放送時間内に納めようとしてコースアウトしてしまったことからも長距離コースをじっくりとやってくるノルディック競技のお国柄の人たちのペースとは相容れないようだ。交換機の歴史などからも経験豊かな北欧のメーカーへの期待は上がる一途の様子である。

世の中のアンバランスな状況を日本からの視点のみに立っていると危ういのが最近の実情である。先に述べた矛盾点の大きな問題点はパケットサービスへの異様な執着であり、基本機能であるはずの基地局間ハンドオーバーの軽視である。国内の通信キャリアでの取り組みと北欧メーカーが地盤とする欧州キャリアでの実情の差異がそこには如実に現れているようだ。国内でのPDCと同様に欧州でのGSMと第三世代の間には大きな方式上の開きがあり第三世代にすべて移行するという図式は欧州にはないのである。

この為に、第二世代との共存が第三世代の目的であり、ある意味においてGSMからのデータサービスの補完機能が第三世代であるというのが欧州で捉えている第三世代の実情である。これらの背景から、北欧メーカーが欧州仕様に合わせた開発計画としてGSMと第三世代の間の異種間ハンドオーバーを重要視していて、本来であれば必須の第三世代同志でのハンドオーバーを軽視しているのである。というのは当面、林立するGSM基地局群の中に第三世代の基地局は点在するホットスポットのような位置づけらしいのだ。

確かにGSMでGPRSにシフトするだけで欧州の人たちはi-MODE的なサービスが受けられるだろうから十分満足いける第二世代として利用できるのだ。世界を上げて携帯バブルに躍った最大の理由は、日本での狭い地区での周波数不足に端を発しただろうし、時を同じくして実用化されたCDMAの出現による技術バランスの崩壊が起爆点だと考える。理想を追いかけた机上の議論から生み出されてきたIMT2000という魔物に魅入られてしまった。実際のビジネスに照らして落ち着いた判断が出来る時代になったのはこうしたバブルが弾けてのシビアな経営指標にかざして出来たというのが正しいかも知れない。

始まってしまったこの携帯版の戦車レースはエンジンが崩壊するまではピットインで棄権することすら出来ないという不文律があるようだ。撤退は、その会社の崩壊を意味してしまうくらいの慣性モーメントがあるようだ。さて、そんな中で決められてきた3GPPの規格にはパケットネットワークでのシーケンスが定義されてエアーでコアネットワークと認証とIP払出などがスムーズに行われる仕様になっていた。そんな仕様を見て、採用を決めたキャリアは自社の運用でのスペックとして取り込んでいったのだった。

パケット処理の機能をきめ細かく織り込んだ3GPPのスペックと端末とPC間のIP通信としての規格PPPとの間にある無線処理と有線処理とのシステム処理時間の差が存在しているために、現行の3GPPのスペックのままでは接続できずに、有線処理でのプロトコルがタイムアウトしてしまうのである。各インフラベンダーとの相互接続性試験で初めて気づかされるメーカーも多く端末とPCと端末間の認証パラメータをそのまま無線区間の認証シーケンスに適合させるということ自体が時間軸で矛盾を生じてしまいATコマンドなどのパラメータとして予め送出しておかざるを得ないのが実情である。

こうした事態に遭遇して気が付くのは、相互接続性試験などの現場で立ち会うインフラベンダーの技術者の知識の狭さである。確かに広範な規格である3GPP故からなのかも知れないが利用する側のPCで一般的と思われる通信設定などの知識も持たずに相互接続性試験に従事している様は、このシステム構築でのSEスキルの不足を改めて感じる。第三世代携帯と呼ばれて久しい、このシステム開発において実用化段階を迎えようとしている時期に現場にいる技術者にシステム全体を把握とまでは行かなくとも通常と私たちが考えているSEスキルを持たずに盲目的に自分の範囲のことだけの理解で進めている様からは先に不安を感じるのだ。

仕様書通りに作ることに奔走している感のあるメーカーの方々や、3GPPの規格を頭から受け入れて自分達の仕様として書き換えていこうというキャリアの方達の仕事ぶりは、未完成であることを認識せずに突っ走っている姿のようにも映るからだ。エアープロトコルでのオーバーヘッドを理解して時間軸のシーケンスとして理解されている方々が殆どいらっしゃらないという事などが3GPPの机上の規格論議などですら出来ていないからかも知れない。今年三月の仕様で直っているとも言えないこうした3GPP規格への移行をベースに年末に向けて実システムとしての稼働を進めるのは、まだ無理なようだ。

さて、GSMがパケット化されてi−MODE的に到達しようとしている現在からの次の手だてとしての高速化パケットシステムとしてのみ意識されている欧州版のWCDMAの実情を垣間見ることになった。日本が国を挙げて進もうとしている第三世代というもの自体は肥大化したこの業界を支えるための目標としてのみ存在しているようにしか見えない。欧州からの独立をさらに進めていくためには最新の規格のシステムを欧州勢よりも先んじて完成させていくことしかないと思われるのだが、欧州規格であるが故に進まないという事がスパイラルを負に転じさせているようだ。

通信キャリアの要請に押されてツインプロセッサだテレビだと華やかに見えるキーワードのニュースと実際に利用するユーザーニーズとの間の乖離には誰も触れたがらないのは禁句だからなのだろうか。12万円する高価なデジタル地上波とテレビ携帯が出来る端末というものを使って見るというコンテンツはまさかニュースやコマーシャルなのか・・・。そんな暮らしぶりで支払う通信費用との間のギャップを埋めるのは何かの技術革新が必要なのだろうと思うのだが、端末メーカーは一番のコスト要因である開発コスト・人件費を削減しようとしてツインCPUに行こうとしているが、肝心の通信キャリアが抱える人件費の圧縮を抜きに通信費用が下がるとは思えないのである。これ以上のニーズが広がるとは考えにくいのである。

ユーザーニーズから乖離した製品が商品として主流になるとも思えず、トータルなユーザーが利用する生活スタイルから得られる対価としての通信費用の懐具合。そこから算定されるシステムコストやトータルなシステム要件のバランスを追求しているはずのSEが不在なのだろう。相変わらずの土管を通すというINS時代の考え方に立脚していて無線リソースの消費というよりは浪費するという形で進められた研究陣達の成果が事業観という箍を括ることなく進められてしまった結果としかいえないのだろう。博士号の数を誇るのも良いが結果としてのビジネスの破綻について責任者の顔は見えてこない。

破壊と創造というテーマを携えてメーカーは変わろうと苦労しているのだが、通信キャリアにはそうした姿は見えない。メーカーにしてみれば、端末を注文して買ってくれるお客様なのであり、そのお客様の要望に沿えるよう努力をし続けてきた結果なのだ。通信キャリアが買い上げて発売していくというビジネスモデルを革新することが最初に取り組むべきテーマだと思うのだが、通信キャリア同志の横一線という問題でありこれこそ国がリーダーシップを取って行うべき事由だと思うのだが、温度差が著しい通信キャリア間の競争状態で自由にさせているというのが、きっと国の言い分なのだろう。

国を挙げて、第三世代通信システムの実験台として貢献しているというのは大きな認識間違いであって実態としては北欧メーカーに舐められきった相手にされていないという実情を再認識すべきだろう。開発ボリュームから圧倒的な差異を見せつける北欧メーカーとの仮想競争など現実と乖離した未来を想定したプランの応酬をしている試験会場に過ぎないのが日本の実情である。開いた風呂敷を畳みにかかった通信キャリアの技術トップも出てきているようすなのだが、そうした状況をあえて報道しないのは国策として進めてきたことの責任からなのか。未使用あるいは過疎な使用状況の周波数利権の返却などは天下り先の縮小という話に直結することから五増五減の法案と同様に進むハズもない。

せめて開発の渦中にいる技術者は、そうした状況を正しく認識して無用に疲れるような間違った仕様に基づく開発の偏向などに対して正しい技術理解に基づいて訂正修正していくという気概で仕事に当たるべきだと考えている。ネットと無線の双方の規格を熟知したシステムエンジニアがビジネスモデルとのバランスを考えつつ新たなシステム提案という形に現在動きつつある、認識違いが多いといわれる進行中の新無線システムや放送システムを是正していけようにするべきだと思っている。知己の仲間達は、少なくとも同じ意識でいるようだ。もう決まっているから手をつけられないと考えていくのは大きな過ちだ。

PHSで利用するFOMAのようなテレビ電話が出来上がったようだ。もともと、このテレビ電話仕様は、PHSで考えてきた物だったはずだから、これこそ本命だろう。新幹線の中でテレビ通話が出来ることがどれほど必要なのかどうかは情報量と課金の関係から考えてみても不要としか考えられないのだから・・・。無線LANとPHSで全てをカバーしようと考えている新興通信キャリアを買収しての取り組みなどのほうが革新的であり核心をついているのかも知れない。相変わらず、今やっている仕事を無為に続けて止められない姿が日本の各メーカーに見られるのは愚かなことのようにしか見えない。

そんな携帯業界の図式が更に見られるのは、来週の東京ビッグサイトでの展示会などかも知れない。もとよりバブルの香りを助長してきた感のある展示会だが、昨年あたりの各社ブースなどの有り様を見ていると業界の厳しさが見えてきていた。おそらく今年もそうした傾向のままであろう。本来ならば説明要員としての仕事があるのだが、間際に飛び込んできた仕事で米国に行くことになり水曜と木曜の日程には参加出来そうもない。バタバタと決まった出張支援の為にお客様のホテル予約やら準備などに奔走していると、重要な点についてはお客様自身で解決できたという情報が、また昨夜入り出張される方達の人数を減らす事態になった旨の連絡があった。

時差を考えて夜中に現地のホテルと電話して予約のキャンセル手続きをし、今朝は残された課題整理をしつつ成田からサンディエゴに向かうのである。まあお客様の出荷や開発を支えるのが仕事で食べている訳なので致し方ない。米国の仲間への説明やアクションリストの変更やらを考えつつ、今日という時間軸の中での作業に奔走している。夏本番に突入する中で乾燥した真っ青なカリフォルニアの空の下で、少し気楽になった出張だといえるかも知れない。月曜火曜の二日間で解決して金曜日の展示会には駆けつけて、暑中見舞い代わりに送付した招待状で来てくれる知己達に挨拶をしたいと思うのである。

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