業界独り言 VOL185 嫌な奴になろう 米国

爽やかな風を受けながら、ラホーヤの岬の上のSolidad Mountainのメモリアルパークに来ていた。360度に拡がる視界の半分は青い太平洋であり、半分は緑豊かなラホーヤ地区の町である。眼下にはUCSDのキャンパスや遠くにはミラマー空軍基地も広がっている。毎日が気持ちの良いこうした気候の下で、着々と開発を進めているQuad社の仲間と太平洋の向こうのお客様たちとの間には時差や気候差も文化も含めて大きなギャップがあるように今更ながらに感じている。小高いこの丘陵の高さも844feetということだが同僚の車でくればほどない良い場所である。日がな一日過ごせたら、気持ちも、まったりと溶け込んでしまいそうな場所である。忙殺されている日本のメーカーの技術者にしてみたら嫌な奴らだと思われるに違いない。

まったりとしている間にケイ佐藤も合流してきた、彼はこの日曜日に到着したばかりなのである。日本の休日に移動するのは時差を少しでも無くそうとするからに他ならないのだが、毎月のように世界中を飛び回っているケイ佐藤にはどこが本当の自分のタイムゾーンなのかいつも時差ぼけに苦しんでいるのかも知れなかった。借用しているケータイが鳴りケイ佐藤自体はちょっと道を間違えてアンテナの林立している別の峰にいってしまっていたようだった。やがて到着した彼も風景と素晴らしい風の双方に感動して、サンディエゴに何度も訪れている彼自身にとっても初めてだということだった。写真の絵としては、ここでF18が編隊で発進してくれたりすると映画の一シーンになりそうな感じである。

同僚の東医研君も含めて同じ会社からの転身組であり派閥ではないものの同じような文化背景を共有するものとして意識には近いものがあり携帯開発プラットホームの構築などについては基盤技術の開発をしてきた東医研君に意見を求めているのも日常であった。三人で残りの予定を確認しあってラホーヤのビーチ側の町に下りてお茶にしようということにした。ラホーヤ地区と称した場合には、この海辺の町を思い起こされる方のほうが多いのだろう。メキシコ調の白い建物なども混じったりする強い日差しのなかの快適な気候の町である。海岸の斜面を利用して立っているケーキハウスのデッキでお茶と相成った。到着したばかりのケイはビールで時差を取ろうしていたし私はアイスティーとキャロットケーキを頼んだ。

やがて到着したケーキは、三人でシェアしても各自が満足できるほどのボリュームであった。強い日差しの注ぐビーチでは地区運動会といった風情の週末となっていた。日曜の午後を過ごす無粋な三人組の会話はプラットホーム事業の互いの状況アップデートである。先日のプラットホーム部隊への殴りこみ事件なども含めてチップ事業とプラットホーム事業の統合の必要性などについて話をすると、トップ判断では、遠くない視野にそうした動きも入ってくるようだった。プラットホーム開発の中心はビジネスと技術の二つを軸にしていてサーバー側の仕事はビジネス側になっていて、技術を追求しているのは端末側の仕事となってい。そうした技術の中心には透徹した思想で彼岸の先までいっていそうなグルがいて、統合の鍵はグルが認める技術者がチップ事業側に居るかどうからしい。

週が明けて、3GPPの渦中に身を置きつつお客様が開発している端末の支援をしている。いろいろな機能を盛り込んだお客様の開発の過程で起こる課題の解決が仕事なのだ。ハードの問題なのかソフトの問題なのか切り分けをして問題を追及して行くのだが・・・。必要なスキルとして求められるのはシステムエンジニアそのものである。お客さまの端末で得られた情報あるいは状況を解析した成果を分析していき検証の方策を決めデータ採取し対策を決めていく。ドキュメントのtypoもあるかも知れないし、ハードソフトのミスマッチなどもあるかも知れない。ともあれ自分たち自身で検証して出荷しているハードでありソフトであるから、第一に論ずべき内容は「何故見つけられなかったんだ、あるいは何故自分達の環境では起きないのか」といった点から導入していく。

ハードとドライバーの間に見つかった問題を追及していくとハードとソフトの双方が疑わしくなっていく、現場にいる私達から確認できた有効な方策についての自分達なりの理解を対応する技術者達に説明して検証していくのだが、こうした時にはある意味で嫌な奴になっているようだ。ここでの嫌な奴とは、自分自身が考えていることの範囲での過不足を指摘されるような奴ということになる。支援技術者という仕事がお客様の端末開発の問題解決を使命としているから、致し方ないところであるのだが出来るだけ嫌な奴となるようにするのである。嫌な奴と認識されることは、「よく判っている奴だから、正面切って対応していかなければ・・・」と思わせることになるから結果として仕事が進むのである。嫌な上司あるいは嫌な同僚ということにもなるだろう。嫌な部下も持ちたいと思うのだが・・・。

問題が起こって発見報告された内容について、お客さまの感性から背景や次に期待していることなどを網羅して対応していくことで、より深い追求が行える。こうした追求をしていると、まず現状の指摘された点の認識を確実に行ってもらえて次の策については関係者を招集して会議で議論する。対応する複数の機能の関係者を一同にして一気に解決するのである。それぞれがコードを書き起こしている担当者なので答はその場で決まる。現状の課題と次の対策があっというまに決まり小気味よい。誰かがちょっとした間違いで発生した問題などもソースコードの共有が大きな力となり解決される。100人足らずの開発チームの中で開発しているソフトウェアではあるが具体的な担当者を探すのはソースコードにかかれている三文字のショートハンドで認識するようだ。

最初には面くらった三文字の短縮形には法則性もなく対応するデータベースもないことが判ったが、バージョン管理レコードに書かれている名前との相関からデータベースを作りうることが判明した。しかし生憎と同姓同名ではないが多民族で構成されているQuad社の技術者リストを照会しつつ確認していくことが必要だと理解した。少しずつ必要な状況に応じて調べていき担当の技術者とコンタクトしつつ顔を広めていくことが必要である。普段はメールだけで話をしていた仲間とフェイストゥフェイスで話しをする一段と次のコンタクトも容易になっていく。時にはグラフィック人事ページで確認した10年前の写真とのギャップを感じたり最近になって丸刈りに替えたんだというような事態にも遭遇はするものの楽しく仲間が広がっていく。

ソースコードの修正履歴を見ていくことで、担当者の変遷やらチームの構成などもわかっていく。チップ事業部として2000人足らずの事業部全員からみてもようやく100人程度の顔を覚えたり見かけたことがあるようになってきたというのが実情なのだが。写真付きの人事ページは本当に有用なものであり、各人が加入している社内委員会相当のMLリストの一覧なども大きな手がかりとなっている。人事上の上司やら、チームなどもこうしたMLやらレポーティングチェインなどから明らかになり、バケーションを取っている担当者の代理を探したりするのにも有用だ。嫌な奴として担当者の部屋に質問にいきVHDLを確認したりしつつ実像に迫り、結果として実装上の不備が見つかり対策などが確認されるまでのやり取りは真剣勝負なので楽しいものだ。互いに嫌な奴だと感じるまで進めることが次回にはきっと上手くいくはずだ。

お客様からの要望に沿って新たな機能を盛り込む検討をする際に、切れ者といわれるあるVPに参加してもらうことになったのだが、ミーティング通知をするだけで参加してくれた。先日彼に送りつけたRTOS変換に関するレポートが功を奏したらしい。彼の人事リストをみると部下の居ない一匹狼の技術トップであることがわかり、そうしたことのプロフィールも実際に会議に参加しつつ感じ取ることが出来た。実に嫌な奴なのである。ある機能導入を要望されるお客さまに対応するための調査会議として識者を集めて一時間の会議を招集したのだが、会議進行が次々と進み30分で終ってしまったのだ。途中での彼の意見はきわめてシャープで的を得た意見を出してくれてもいたのだが・・・。「なんで30分も長く会議時間を設定したんだ。」というのが、彼のクレームなのであった。爽快な嫌な奴だ。

クレームをつける彼には、散会するなかで別の技術議論を持ちかけて更にしぶとく食い下がることで会議のチェアマンである同僚はうまく丸め込み利用しているのだ・・・。この同僚もあなどれない、やはり嫌な奴だと思われているだろう。技術議論を続けていると次の会議時間になったらしく会議室を追い出されてしまったが廊下で更にしぶとく続けていた。彼は次の会議で別ビルに行く必要があり、持ちかけた議論は結論には至らなかった物のチェアマンとのやり取りを見ていても経験豊富で同時に色々な可能性を考えつつの回答をしている様子がうかがえた。チェアマンからは「なんだかおまえは、あのVPに好かれているようだな」といわれたのだが同類ということを今回の会議やレポートを見て認識されたようだ。互いに嫌な奴だと認識されたのは嬉しいことである。

嫌な奴になろうと認識してからは、逆にいえば遠慮がなくなっているともいえる。皆が皆そうしているわけではないのだが、自分の感性としては、あのVPのような爽快な嫌らしさを目指したいと思っている。同僚の意見とのぶつかり合いなどを通じて、彼のハードウェアに関しての理解不足な一面を見つけるとどのように、そのことを説明するのが適当なのかを考えてスイートスポットを狙い撃ちした。的中だった、彼が判るように説明した嫌らしい説明を通じて、また仲間としてのつながりが強くなったように感じている。レベルの高い仲間と伍してやっていく暮らし方の一つの方法論として嫌な奴を目指すというのは悪くない選択であると思う。無論、スマートな方法論もあるのだろうが、私は嫌な奴だと思われたほうが良いように思っている。

既に前の会社などからは、スパムメール扱いされた事もあるくらいだから、それは望むところでもある。真剣に嫌な奴を目指していることを伝えたいということは、実際に私が心底思っているのだから・・・。3Gの戦争という状態はある意味で北朝鮮の国情のような状況に変わってきたらしい。突然手のひらを返したように変わってきたWCDMAの状況は、Quad社の技術の両輪としてビジネスがよりよく回りだしていることを示してもいるのだ。そんな中で、私が目指したいのは当たり前の開発の仕方をして、事なきままに開発が進められてきているQuad社の開発の真実に根ざして、出来る限り嫌な奴としてお客さまのお手伝いをしていきたいと思うのである。門前払いの歴史などから考えると最近のお客さまの私達のWCDMA技術への関心のそれはミラクルチェインジだ。

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