業界独り言 VOL200 フィーチャライズのこと ロスにて

実は、パソコンHDDの故障で独り言のメール配送先アドレスを失ってしまっているのだ。故障はVOL198でお伝えした通りなのだが、まだ壊れたHDDの中身の救済策はない。控えが残っているだろう自宅に戻ってからどれほど昔のアドレスリストに帰ってしまうのかが不安だ。とはいえ最近では私のライブメッセージあるいはハートビートのように思っておられる方も多いらしく昨年の9.11の際には色々ご心配をおかけしたりしていたようだ。一週間足らずの予定で臨んだ出張だったのだが様々な理由で二週間あまりに延びてしまった。メールでの通知が届くまでの間は暫しご容赦を願いたい。頻繁にアクセスされている方はいらっしゃるようだが・・・。

特急サポートではないのだが、火急なお客様のサポートというのは往々にして私のマイレッジを増やす結果になる。Featurizeを徹底するのがシステム規模の製品としての常だと思うのだが、ベースとなるソフトウェアでのそうした設計思想が御客様の製品に反映されていないことに直面すると絶句してしまう。さまざまな機能を提供している携帯電話のシステムソフトとしては機能別の開発体制が敷かれていることもあり御客様のチョイスでこうした機能の取捨選択が行なえるように条件コンパイルがいたるところに入ったものとなっている。

オプションとして売っているソフトなどもあり、そうした部分は標準出荷のコードとしてはストリッピングと称して自動的に機能指示で削除するようなシステムとなっている。逆にいえばシステムテストをしているときには殆どの機能を有効にして試験しているともいえる。こうした機能単位に有効無効にする仕組みを用意しているのは互いの機能同士が影響しあったりしていることからシステムテストでの不具合検証などの際に関係を切り分けしたビルドを用意するのが容易だからに他ならない。当然こうしたコードを提示しているお客さま自身も同様な取り組みをされて当然といった思いもあった。

急がば回れという言葉は、携帯業界では失われてしまったのかもしれない。回るよりも急ぎすぎて事故を起して停滞している現実を見ているとじっくり考える時間を持ちつつの開発をしていただきたいものだと思うのだが。新機能の通信方式を組み入れた御客様の端末が動作しないという事態で持ち込まれたのだが、内実には多くの問題を抱えていたようだった。この足でそのまま接続試験を予定している基地局ベンダーに訪問するという無茶苦茶な日程だった。確かに、お客様の向かう先の基地局ベンダーとは既にQuad社としては検証テストを済ませており、また他の御客様も組み込み達成の後、訪問して検証テストを済まされている。

そんな実績を聞いてか知らずか、強行日程を組まれてのストップオーバーというスケジュールはあまりにも神風神話を信じているとしか言い様が無かった。新方式以外のものは既に御客様でも経験が活かされているだろうことは承知はしているものの少なくとも御客様の社内で確認が取れてから来てくださいといった問い掛けもむなしかった。要は何処から手をつけてよいか判らない状態だったらしい。疑問点を列挙しての訪問だったのだが、個別質問の背景にある状況を見受けられるのはシステムエンジニアの不在ということでもある。お客様としてのそうした職責のリーダーがいないからといって提供元の私たちに振られても・・・。

最初の問題は御客様曰く、私たちが提供するある機能がどうしてもハード的に動かないというのだ。実はこの問題は、渡米前には私たちの提供する評価ボードでも動いていないという御客様からの連絡がありメールのやり取りで御客様の誤解が解けて誤った測定個所をピックアップしていたことが判明したのであった。当然御客様の何らかの組み込みで問題が起こっているのが明白なので差分確認をしていただければ解決するはずであり実際にそうだった。しかし、問題点は週末を越えて繰り越されそのまま米国に持ち込まれていた。最初にお願いしたのは御客様のソースコードを預かり確認することだった。

該当個所のソースコードの確認を進めていく上で初日の一時間余りで問題の個所は特定できて御客様自身の移植ミスが判明した。何故、こうした不具合が見つからないのだろうかと考えていくと問題の背景がクローズアップされてきた。この該当モジュールには御客様の担当者が不在らしいのだ。我々自身は再利用をハード・ソフトともに進めているので出来る限り旧来のチップセットとの互換を保ちつつ差分を明白にして開発を進めているのだが、御客様はこの該当モジュールの移植に際しては前機種の移植成果をそのまま適用してオリジナルの差分を自社で必要な差分として認識していたのだった。

前機種と現機種の違いはRFの構成にありチップのコンフィギュレーションが異なっていたのだが、トレーニングで説明していたにも関わらず、また電子メールや電話で口すっぱく説明していたにも関わらず内容は間違ったままだった。陥りやすいポイントを説明していたのにも反映されないのは、説明した時に出席していただいた方達が実際の移植作業を行なわれる方ではなかったからのようだ。あるいは、既に見切り発車で作業を進めていたことへの見直しが無かったからなのかもしれない。同様の個所は他にも見つかり、やはりハード構成の機能指定が誤っていたのだった。システム動作でのメッセージなどから出てくる兆候から類推して確認していくという非効率的な状況となっていた。

動作不調に陥る前兆となるメッセージ個所などから問題点を類推していくというやり方は本来はリファレンスの評価ユニットとの比較で御客様自身が行なえる環境の筈なのだが・・・。そうした基本的な進め方から外れてマイペースで一気に畳み込む開発をしている姿は強引愚マイウェイといえる。御客様が自社のオリジナリティを発揮して改造改版されるのは構わないのだが、追加された機能あるいは改版された機能単位で、その内容は取り外したビルドを作りつつ確認していただきたいのだ。逆にいえば何故最初からテンコ盛りにしてしまうのかは理解に苦しむのである。まさに急がば回れの心境なのである。石橋を叩いて壊す会社もあるようだし、いかんともしがたいときもあるが・・・。

予定された週末までには目処が立たず問題点はRF性能の校正方法の確立をしていただくこと。御客様の追加構成部分のドライバー周りに問題があるらしいという二点だった。結果翌週にも3日延長することになり、途方に暮れる御客様を気持ちの上でほぐす必要もあり週末土曜にはメキシコまでの観光旅行のナビゲータをかってでた。電車で国境まで向かいランチをメキシコで食べて買い物をして帰ってくるというものだったが焦燥感のあった御客様のリフレッシュにはなったようだった。翌週の3日でなんとかRF問題を解決して曲がりなりにも通話に漕ぎ着けられたのは献身的なサポートをしてくれた仲間達の力によるものが大きい。しかし彼らの疑問は何故フィーチャライズを徹底しないのだということだった。そうすれば問題点が明確になるのに・・・。

何に問題点があるのか判らなくなってしまい収拾がつかない状況というのはやはりシステムエンジニア不在ということなのたろうか。分業が進んだ開発形態とはいえ、全体を掌握する人がソフトと無線と方式の三点セットで理解のある方でなければならないと思うのだが、そうした人材が育成できないままに進んでいるのが現実なのだろうか。これに更に英語の能力があれば我々でも欲しい人材である。スキルアップの流れからそうした人材が次々と回っていくような業界になっていければ健全な状況になるのだと思うのだが・・・。そうした会社の経営陣の認識がそうした姿を描いていないことから、そうした人材が育ちつつ順調に開発が進まないという事態になっているのではないかと感じるこの頃である。

携帯システムの開発リードを受託するシステムエンジニア会社を組織するという新たな考えでも提案しなければならない時代なのだろうか。Quad社として業界を支えていく方策を何か提案模索していかなければならない時代に突入しているのかも知れない。これは自前主義でやっている現在のQuad社の方針とは乖離してしまう嫌いもあり、また同様な事態が韓国などでは見られないことからも日本だけが沈没していくような状況とも映り提案するのも憚られる可能性もあり、難しいバランス点である。マイクロソフトの様に資格試験でも始めるといった辺りが妥当な線なのだろうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。