業界独り言 VOL218 進まない改革

閉塞感のある業界の実態の理由の一つはバブルが弾けたということであろうか。実際バブルの過程で値付けが意図した販路で処分できないシステムなどの場合には量産効果が出る余地もない。そんな通信システムも国際規格に準じたシステムでは従来のPDCシステムの無線基地局よりも安くできるそうなので第三世代のシステム移行でコストダウンが図られるという説は正しいのかもしれない。同一のソフトウェアでどこの国にも通用するというコンセプトもコストダウンに繋がるといえるだろう。大きなコストダウンにより売り上げの落ち込みもあるだろうからリストラになるのだという話も的を得ている。この業界は第三世代という契機を通じて結果として自分たちの仕事を失うような仕事だったのだろうか。

自分たちの付加価値がバブルの産物だったのかどうかという点については、精進している者たちには考える必要もないのかもしれない。リストラにより縮小されて最適化されていく組織の中で自身をさらに適合させて精進を重ねていくものもいればチャンスを求めて外部に出て行く者もいるだろう。自身の可能性を狭めずに広角に捉えていったほうが技術者としてより成功が期待できるのではないだろうか。企業活動の成果が、社会に貢献評価された結果としての報酬であるという考え方の会社もあるだろう。成果がないという事であれば存在価値がないので淘汰されてしかるべしというものだ。自身の限られた人生の中での活動の場を会社を通じての社会貢献と捉えるという思いはある種の宗教観のようにも映る。

一つ気がかりになっているのは、主体的に前向きな開発として進めている組織と流されるままに仕事の仕方を改善せずに負の遺産としてのソフトウェア資産の継承を続けている組織があることだ。確かに個別の開発という期間の中で限定されたリソースの中で手をいれずに古いソフトウェアを使い続けるという方針もあるのかも知れないのだが・・・。果たして残すべき資産としてのソフトウェアなのかどうかという議論が行われているのかどうかが、鍵なのかもしれない。検討もしないで使い続けている理由には、開発した担当者がいなくなってしまったので誰も分からないから・・とか、機能として製品のメイン機能ではないために担当を置く予算がないということなどが一般的だ。概して問題となるソフトウェアのベースは調整機能であったりする。

チップビジネスを推進してるQuad社では、多年に亘るソフトウェア資産という観点で時代の要請に応じて構造も含めて改革をしてきている。無論メーカーと同様に古い資産を流用している部分もあれば、この数年の間にずいぶんと変わってしまったと感じるものも少なくない。闇雲に変えているわけではないのは明白で無駄なリソース投入をしていないのも事実である。ソースコードを共有して理解のベースを一つにした上で進めているこのビジネスにおいては開発者同士が一枚岩になっていることが必須といえるので私のような支援技術者のようにお客様の対応で必要に駆られなくともソフトウェアの全体構造についての理解をたやさないのは普通といえる。わからない部分は実際の開発者に聞けばよいのだから・・・。距離感が足かせになるのかというとそんなこともなく、国際電話で時差超えでボイスメールを残しつつメールのやり取りをすることで十分に果たせるのも事実だ。

Quad社がかつて製品提供していた時代の事を考えると、日本や韓国のメーカーの生産規模とのギャップを感じることも少なくない。デジタル無線機の開発生産ということに共通な技術としてのベースは確かに、Quad社にもあるものの、ラインタクトタイムまでの認識についての意識までは薄いといえるかも知れない。とはいえ、こうした過去の経験値としての機能も次々と改善されてきている。開発メーカーと同じく、調整用のソフトウェアは別物という考え方が過去のQuad社にはあった。無線設計をしているメンバーにとっては搭載デバイスにあわせた評価や校正といったことがある意味で先行して進める必要があるからだ。

テスト評価用ソフトというものは、先行開発を進めるための端末サブセットというものになっていた。基本的なベースを同じにしたうえでサブセットにすることで無線評価開発チームが作った成果のうえに実際の物を展開していくというのがそれまでのスタイルだった。現在のデジタル携帯電話を仕上げていく上では、バラつきのある部品の差異をソフトウェアで吸収しながら性能達成をするというのが必須条件となっていて調整段階においては、外部測定器系統と端末ソフトウェアとが連動してフィードバックをかけて調整を行い結果としての個体差を外部で記憶して固有値として各端末に書き込むことになる。そうした使い方においての設計の考え方はUIを一切持たずに外部機器がUIあるいはメインフローとしての扱い方にしておき、端末自身はインタフェースで接続されたデバイスとして制御は外部からの指示のみで動作するようになっている。この考え方はきわめてシンプルであり、無線技術者は自分自身の調整したいテーマに則ったパソコン側のソフトウェアをVCやVBで作ればよいことになる。この辺りこそは趣味の領域であり雛形として提供するもののインタフェースを利用して各ユーザーが自在に作ればよいことはいうまでもない。

開発期間の短縮を求めるお客様の要請に応じて、こうした調整用ソフトウェアも提供する範囲になってきた、また予め製品機能として組み込むという形にも変わってきたのである。オリジナルのソフトウェア体系としてこうした調整機能が組み込まれているということでお客様の物づくりがより作りやすくなるのは明白なのだが・・・。実際には、形骸化した過去の資産継承に追い立てられるのか、リソースが足らないのかという問題に直面するからなのかは不明なのだが、今の資産であるソフトウェアにあわせ込みつつ一々仔細なレジスタ書き込みレベルでの情報を求めてくるという流れから脱却できないらしい。残念ながらチップ制御という側面からいえば以前の構造のものとは大きく異なってきていることからもAPIの提供という形に変わりながら逆に測定調整用のAPI整備を進めているということでもある。

流れに乗れないお客様には、産みの苦しみを味わっているようにも見えるが、実態は開発してきた調整用ソフトウェアというジャンルの技術を軽視した結果のようにもみえる。担当者不在で差分組み込みのみを続けてきたというのが理由らしい。熱海の旅館構造になっているのは携帯電話の本体ソフトだけではないようだ。端末開発というプロジェクトを捉えた際の見積もりを差分開発でしか捉えていない限りは圧倒的な改善といったことには移れないのだろう。差分開発での見積もりに慣れすぎていて新たに作り変えることについての予測も立たないというのが現実なのだろうか。開発作業という主体の流れの多くが自社従業員でないのが当たり前になっている日本においては、改善のフィードバックという日本製造業の看板がはずされてしまっているように見える。ただ徒に開発費用の削減を求めているままでは総括してみていない下請けから提案が出来るはずもなく悪循環が続いているのだ。

こんな状況を裏付ける病的な事件が発覚した。Quad社で推進している開発サポートの改革成果として、従来の電子メールベースからWebベースに移行するなかで、より現場に近い人に直接質問をインプットしてもらおうという事になってから半年あまりが過ぎた。残念ながら日本のお客様で自分の問題点を直接英語で説明できる人は少ないので我々サポートが介在するのだが、お客様が作成あるいは作成したことにしてからでないと我々が質問をフォローできないのである。結果としてお客様が質問メールを電子メールで頂いた際にお客様が入力したことにして該当のお客様の電子メールアドレスを入れてサポートが始まるのである。しかし、お客様の中には正社員以外の技術者が質問を投げられないというようなルールを課している会社があり、実際に何通もあるお客様とのやり取りをした結果「もしかして私の質問がメールで返事が来ているのは登録されてしまったからでしょうか」というメールが届いた。彼いわく正社員ではないのでアカウントを消してほしいというのだ。実際にここ数ヶ月の彼とのやり取りで問題解決が図られてきたのだったが、折角担当者との理解が進む問題解決の方法を提案提供しても、こうした風習があるかぎりは日本メーカーの閉塞感は拭えないように思えるのだ。

お客様の中には、会社全体の再構成をして開発技術者全員をソフトウェア開発部門の会社に出向させるという荒療治を行おうとしている会社もあるようだ。いずれにしても製品開発をする主体のメンバーとして同じチームにいるという気持ちの一致が実現できるような組織でなければ開発効率や製品信頼性の向上は望むべくもないのではないか。製造業界の仲間として下請けも挙げて取り組んできたカンバン方式をせよといっているわけではないのだが自分たちがすべてを理解できないままに開発のようなことをしているのはおかしいのではないか。我侭だけをいって本質的な改善につなげるようなPDCAのサイクル確立なきままに、バブルで破裂した状況のみを活用して下請けたたきをしてコスト削減をしているような事が続くはずはない。技術的に公正な競争という健全な姿を実現していくためにも下請け・元請けを問わずグローバルな技術者を目指してもらいアジアから取り残されないようにしてもらいたいものだ。

荒療治をしたり、統廃合されたりしつつも結果として電子メールアドレスが一本化されつつある最近の動向は私達のビジネスからみればある意味でよい方向といえるかもしれないし、きりがない質問が増えてしまうということの警鐘になるかもしれない。伸びていく会社であるならば、グローバルな技術者が自ら英語で質問を投入していくだろうし、プロセスの悪い会社ならばまた日本語での質問が届くまでの社内コミュニケーションに割かれてしまいあまり問題にはならないという見方もある。困るのは、ともかくお客様の開発生産性が向上してもらい、良質な製品が次々と開発されないことには会社としてのビジネスモデルに照らして我々の日本での作業が尻すぼみになってしまうのだけは避けたいのである。また独り言のメールアドレスが届かなくなる人が増えていくのかもしれないがアドレス更新の連絡が届けばありがたいものだ。

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