業界独り言 VOL267 事実は小説より奇なり

今年もチョコレートの季節が過ぎて、イチゴあるいはひなまつりといった風景に世の中は変わっていった。あるいは、ホワイトデーなる日本的な慣わしに続いていくのかもしれない。この季節に齢を重ねるといった事実背景から、成人式を二度迎えたりした不思議なめぐり合わせに遭遇したりもしてきた。チョコレートとバースデープレゼントの重複した意味を誤解した結果で、もしかしたら今の生活に陥ってしまったのかもしれないのだが・・・。まあ人生の出会いも展開も書き出していけば、小説よりも面白い事実で満ちていることなのだろうとも思う。前職では、国内の電器メーカーでの通信機開発といった情勢の中でマイコンソフト開発の草創期より多年に亘る仕事をしてきた。通常の開発プロセスが確立していた通信機器メーカーなどとの差異は、そうした事業背景に根ざしていたのではないかと振り返っている。

転職の契機になった理由の一つでもあったケータイ定額制を実現する1xEVDOの技術もようやく、通信キャリアからの実用化に段階に突入することになった。実際のところ、自身がそうした仕事に介在しているかといえば広がり行くQuad社の仕事の中で実はWCDMAのユーザーサポートをしたりしているのである。技術的な追求という点でいえば、世界標準として相互競争がある技術のほうがQuad社自身も伸びていくのではないかという気がしている。国内の通信容量飽和という事態を迎えて国内のトップキャリアが目指した幾つかの政策自身が、国内の機器メーカーの開発プロセスを破綻させたのではないかとすら感じているのだが、もう少し長い目で見守る必要があるだろう。ともあれLinuxケータイやケータイ専用OSマシンなどまでもが実際に市場に登場するまでに至ったのは歴史に残ることでも在ろう。

PoCなどと呼ばれているPTT Over Cellularという技術は、Nextel社がモトローラの変復調技術やGSMベースのシステム構築などの当初世代に続くものとして開発を進めてきた成果がようやく世に問う時期を迎えたりしているようだ。こうした話題などは、前職の会社でこそ当然のように進めているべき技術だと思うのだが、国内でのビジネス通信市場は米国のそれとは異なりケータイ競争やPHSの競争などに巻き込まれて現在では体を為していないのである。CDMA2000ベースで構築した幾つかのPoC技術の中でもPS網でVoIPで実現している事例などに比べてNextel社の事例などはプロの要求仕様に叩かれて出来上がってきた技術であると思う。第三世代ケータイという技術の競争の上で、実際に使われるアプリケーションである業務用という通信システムに視点が移っているというのは健全化したと感じる。

自社技術で早期導入してしまった通信規格からの最新規格への乗り換えを検討しているように映る国内通信事業者では、3.5世代と呼ぶような技術やUMTS対応といった謳い文句などで複数の通信規格の共用を実現していく考えのようだ。昔、国内通信事業者の母体から切り出された移動体通信の部門に移られた方が「出向させられてしまいました」といっていたのが今ではこの部門で国内通信事業者全体が養われているかのような状況は可笑しいものである。PDCやPHSの開発を通じての付き合いで旧知となった方が、今では国際規格準拠に向けた活動を進められているというから、きっとこうした事例も小説以上に面白い史実を語ってくれそうである。通信事業者の方で特に端末機メーカーにとっては神様あるいは閻魔様のような御仁がいて、彼は端末機の仕様を告知する立場となっている。

「コードレス電話機とケータイ電話の違いは何か?」と素人に質問されたら如何に回答するものだろうか。市内に持ち歩けるコードレス電話機という位置付けで開発されたPHSなどが入るとますます混乱してしまうかもしれない。ケータイ電話のシステムをそのまま、コードレス電話としてビジネスユーザーの世界などに提案して共用を果すというシステムが米国のAMPSシステムをベースにして構築された事実がある。そのシステムを起案して国内と米国とを往復しつつ意欲的に挑戦開発してきた技術者は、国内通信機メーカーの枠を越えて弾けてしまった。彼の開発成果としてのインビルディングシステムあるいはプライベートセルラーなどと称せられるシステムはその後デジタル化として国内通信キャリアが取り上げたりFOMAなどの規格のベース案件となったりしているようである。この技術にも注目していたというのが、前出の閻魔さまだったりもしたらしい。

派手な開発ストーリーで破竹の勢いで伸びてきた国内通信キャリアも第三世代の開発の負荷には思いのほか苦しんでいるようである。当初スペックと国際スペックの双方に対応させるという国際化戦略が出てきた背景には、第二国内通信キャリアが行ったような国内専用システムの廃棄移行などに遅ればせながら追従しているかのような印象すらもある。ソフトウェア開発が複雑だからコストがかかるのか、要求仕様が高すぎるからなのか。国際調達が掛けられることでコストダウンを考えている通信キャリアの意図が見え隠れもしている。通信キャリア主体で仕様を提示して物作りを進めてきた背景と、低コストで物作りをマイペースで進めている北欧メーカーなどのギャップはかなりのあるものである。提示仕様がわがままなのか、仕様に追従しないのがわがままなのかは、国内メーカーとの蜜月時代の終焉を示しているのかもしれない。

国内通信キャリア御大自らが北欧や米国に脚を運んで低コスト戦略の部材調達に走っている実情と、他の国内通信キャリアとの競争状況とには大きなギャップがあるようにも映る。いずれにしても低価格で必要な機能が満たされる高性能な端末が必要であるということには違いがないのだと思うのだが、こんなにも経済や政治が破綻している国で何故超高級志向の端末ばかりを作り込まされているのか疑問に思う技術者も多いのではないだろうか。とはいえ、ユーザーであるところの通信キャリアが提示する仕様だけに断れないというのが今までのビジネスモデルの延長線にマッピングされた現状のようだ。給与カットや残業カットでモチベーションもままならない中で、次代に続く仕事として新たな展開を求めるメーカーも出てきているようだ。無論通信キャリア自身が、あらたなメーカーとしてラブコールを寄せているような組み合わせもありマスコミとのギャップが面白い。

縁あって先日、閻魔様たちと、今ではQuad社でアプリケーションを推進しているプライベートセルラを開発した知人が仕事での出会いとなったらしい、宴席のなかでプライベートセルラーの話が出て意外なリンクを互いに発見して旧知の仲間として同窓会になってしまったらしい。3GによるPSの時代になりゆく中でアプリケーションゲートウェイとして構築してきたシステムが変容していく流れにもある。フラットレート接続を達成した先行キャリアでは既存の端末設計からの移行に悩んでいたりもするし、新規の魅力的な端末としてアプリを全て書き直そうと言う野心的な端末を中国に向けて納めたりもしはじめている。Quad社のチップセットや開発プラットホームに全く新規に取り組もうとするユーザーなどであれば、気兼ねも無くすっきりと開発が始められそうな様子も伺えるのだが、なかなか今までの組込みソフトの大規模化してしまった気持ちからは抜け出るのは至難のようだ。

Quad社のバイナリ−環境で動作するJavaや◎モードのエミュレータソフトウェアを開発する必要はないと思うのだが、国内の通信キャリア自身もどのようにしたらリーズナブルなコストで楽しい端末が出来上がるのかということには興味津々というのが実情なのではないだろうか。疲れを知らない子供のような開発が次々と進められるような時代に持ち込めればよいのになと思うのは私だけなのだろうか。実績だとかコストがかかるからといって旧来のソフトを使いまわしてくる中で本当の意味での性能追究やコスト追及が出来ずにいるのではないかと思うのはおかしいのだろうか。仕事をするチャンスがあるだけで最近は幸せであると言うのが、この通信端末業界であると思われる、テーマ選択の自由などはメーカーにはないようだ。興味や好奇心をベースに前向きな仕事として若者やベテランが意見やアイデアを駆使して取り組んでいけるような開発サイクルに戻していくために必要なことを考えてみてはいかがなものだろう。

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