業界独り言 VOL292 世代交代の始まり

私の後任としてプロセス改善の仕事を担当されてきた後輩Aさんが、更に後任に引き継ぎ卒業されることになったとメールが届いた。OBとして余り表からは評価されない地道なプロセス改善をしているグループに対しては、転職以来地道な支援活動を続けてきたのであった。支援活動といっても独り言としての声援だったり、プロセス改善活動の過程のきっかけとなる憩いの場を提供するための素材の送付だったりしたのだが・・・。素材は、コーヒーなどと相俟って効果を見せてきたということが後輩Aさんからは報告されてきた。ある意味でエンジニアグループとしてのモチベーションの維持改善をしていく上でも、そういった部分が必要なことなのだろうということは、私自身が担当してきた17ヶ月足らずの間にも感じてきたことでもあった。だからこそOBとなった段階で支援活動に駆り立てられてしまうのだった。後輩Aさんから時々呉れる素材送付に対しての到着確認のメールなどで見聞きする中でも悩み深い様子が見て取れたのであり、支援活動を続けてきたことに繋がっている。優秀なエンジニアが居場所がなくなってしまうような状況なのかと思う反面、個人個人の家庭生活も含めて人生設計の中での展開なのだとも思う。後輩Aさんの新しい人生展開に向けての声援をさらに贈ろうと思っている。

後輩Aさんの学校の後輩にあたる、やはり優秀な組み込みソフトウェアエンジニアだった後輩Bさんがいる。実際の開発現場の中で先端製品の開発を具現化する中で壁に当たり学究生活とは異なる中での組み込みソフトウェアの開発エンジニアを生活に早くに見切りをつけて、中学校の教師生活に転進している。優秀なエンジニアであり残念ではあったものの華麗なるフィニッシュを決めての転職顛末は誰の眼にも鮮烈だった。世の中には優秀な人間は居るもので、プログラム開発などをしてもたいした問題も出さずに難しい課題を解決してしまう人がいるようなのだが、そんな人材だった。そうした優秀な人材を手放してしまうことになる会社の仕組みはいったいどんなものなのだろうか。人事的な考課からいえば、上司である私の指導能力に課題があると片付けてしまうだけなのだろうか。教師生活に移った後輩Bさんも既に十年の教師生活となったそうで、エンジニア生活などは遠い過去のことらしい。既に後輩Bさんが教えた中学生がエンジニアとして就職したりする時代になっているということも考えると味わい深いのである。素敵な先生にきっと優秀な教育を受けた子供らが素直に育って輝く世代のエンジニアになって欲しいと思う。

世代交代は、なにも個人の動きに限ったことではないOEMメーカーとしての開発チームの動きなども世代交代が起こっている。メーカーとしての開発に対する進め方、考え方といった文化までも変容していくには五年もあれば充分なようだ。文化継承がスムーズに行なわれているケースもあれば、衰退といった形になっているケースも眼にする。フィードバックが良いサイクルとして経験していった場合や、経験に縛られて新しいものについていけないといった違いが段々組織を変容させていくようだ。アウトソーシングを徹底しているということは最近の流行なのかも知れないが、アウトソースしたリソースに対しての文化継承という点については難しいのではないかと感じている。多くの機種開発を異なった開発リソース投入という形で成し遂げてきた場合に世代交代がスムーズに行かないというように見受けられる。アウトソースした人材達を社員のように手厚く管理指導したりしても、アウトソースした人材同士のコミュニケーションを支えるに必要なプロパーなリソースが無ければ正しい技術蓄積や文化形成に繋がらないようだ。

ケータイという端末ビジネスで財を成したメーカーが成熟し進化していく端末需要の中で開発コストなどの採算が合わなくなってしまってきたのは、なにもケータイに限ったことではないだろうが・・・。マニアからコンシューマーに展開されゆく中で、開発をいかに効率よく行なうかという議論が高度化した端末開発の機能競争の果てに裏づけとなる基礎研究開発までも手が回らずに研究所まで動員しつつ研究ではなく開発に応じていくことに費やされてしまっているように映るのが現在の国内メーカーの事情だと思える。最近では研究というサイクルがメーカーにはなくなり、ベンチャーが担当しているようだ、そしてそうした技術の評価もままならずに実装という段階にすぐ入らざるを得ないように見える。低コストで量産していくといサイクルの実現にソフトウェア開発が移れずに居るのはプロセスだけの問題なのだろうか、RAPIDな開発に向けてベンチャーが取り組んできたプロトタイピングツールや言語開発環境なども含めた道具立てのツールチェーンを通信キャリアが手助けしてリードしているのだが、果たしてそこに的確に見極められる組織が構成されていれば良いのだが・・・。

キーワードだけが先走りして、競争している通信キャリア同士が疑心暗鬼あるいは隣の芝が青く見えるような状況に陥っていても、メーカーが自立して通信キャリアに逆に指導していくといったサイクルが無くなっている様だ。端末をお買い上げいただいているお客様にアセスメントなど言えるはずも無いと言うことなのだろうか、これはおかしなことである。指導していくようなスキルセットが無くなってしまったとは考えたくないが、通信キャリアが相互の競争の中で進化させてきた仕様に呼応していくことでアップアップしているということで、メーカー自身が自分の身の丈に合ったロードマップを描けて居ないということなのだろうか。となると革新的な新技術を自らが考案して提案しようとしても、メーカーの一技術者として自身のメーカーを動かして、通信キャリアに提案してリードしていくということが出来ないということになるのだろうか。ベンチャーとして独立して技術開発をしていけたとしても、業界としてのこうした体制を駆動して実現につなげていくためには正しい戦略と共に必要なリソースの確保が必須であるだろう。

良い技術をもったベンチャーをメーカーが見つけ出して、活用し差別化してのし上って行くにはメーカー自身の考える戦略的な商品をタイムリーに実現していくことが必要なのだが、開発がうまく回せないとベンチャー自身が開発資金が枯渇して倒産してしまったりするのである。自身で開発していないことのリスクがそこにはあり、チャンスを物に出来ずに消えていった技術も沢山見かけてきた。強い技術を導入するとしても、それを含めて端末としてまとめきれるのかどうかという点が鍵なのであり、中々有用な技術を提示しても及び腰になっているメーカーもあるようだ。どういったメーカーと組むか、あるいは最近であれば寧ろ通信キャリアと組んだほうが良い結果に繋がるのかもしれない。世代コータイと称して第三世代ケータイを売り込んできた通信キャリアではキラーアプリとしてのサービス提供のためにさまざまな取り組みを自発的にするようになっている。こうした取り組み姿勢自体も、ある意味でよい形で世代交代してきた印象がある。現在出来ている技術の範囲で、ビジネスに繋がるような展開を狙った物づくりをしているキャリアもあり、三色オセロの切り替えはちょこまかと変わっているようだ。

経済支援をつなぎつつも信念強く開発を続けてきた知己のベンチャーがようやく通信キャリアの第四世代ケータイサービスに対応可能なサーバー技術として評価されて採用されたと聞いた。早すぎた技術は、着地すべき時代が熟すまでは評価のしようもなかったのかも知れない。2.5世代向けの技術として、このベンチャーの技術導入を考えたのは、まだ用途としてはミスマッチだったのかも知れない。しかし早すぎた技術なのかというと、まだ導入するメーカーとしてまだ自己消化しかねている技術だったからかも知れない。ケータイでようやく愛が始まる時代を前に、先の溢れるこぼれる時代を見据えての技術導入と考えていたのだが、そこまでの要請も無いままに社内での理解も得られる段階ではなかった。つい先が見えてしまうような気になってしまうのがいけないことなのかも知れない。少し先のある時期尚早な危険な技術というようなものの位置づけを管理していくことこそが技術管理なのではないのかとも思うのだが・・・。なかなか、最近のメーカーでそうしたことを続けていくことは叶わないことのようだ。

標準化の流れの中から将来を読み下すことに腐心してきた仲間がいる。提案された内容から、実装される時代のサービスに思いを馳せるということなのだろう。会社として製品化を果たしていく流れの中に、そうした新技術を落とし込んで行きたいという思いがあったようだ。しかし、協業を主体としてケータイ業界の開発の方向が変わってきたなかでは、果たせる場所が見つからなくなって悩んでも居たようだ。自分自身が、先の時代にいかせる技術として気が付いたテーマには、何か手がけて行きたいという思うのが普通の技術者だと思っているのだが・・・。そうした悩みを打ち明けるさきすらも見つけられないで悩んでいるようだ。技術先行調査などと聞こえは良いが、付いてくる仲間や事業が無ければ寂しいものである。最近では、そうした開発の分担をチップメーカーが担っているのが実情ともいえるので、通信キャリアとQuad社などが互いのロードマップの交換すり合わせをしているような雰囲気がある。まあ、実際に商品化を実現してくれるメーカーがあってのことなのだが・・・。

ケータイ開発のボトルネックとも言われるソフトウェア開発を改善していくためのプラットホーム作りが、通信キャリア主導で行なわれている。OSを選定して協業を勧めるキャリアもあるし、現状からの共通化を果たすための仕組みを通信キャリア自らが乗り込んで開発費を投入してアプリ開発までも踏み込んでいる事例もある。そんな渦中にサービスを踏み入れることになったのは、Quad社のビジネスとしての世代交代が感じ取られるからでもあるだろうし実際の物づくりをしていくメーカーを待っていたのではいけないということでもあるだろう。旧来の仕事の仕方であれば、スムーズに物づくりを出来るようになってきたBRICsのメーカーが立ち上がってきたし既に韓国は日本を大きく引き離す開発能力を示している。国内メーカーが最先端だと思って旧来の方法論に縛られて開発を続けているさまは、将来を不安視せざるを得ないのである。開発環境やプラットホームのありようを通信キャリアにお任せして良いはずは無いし、今までの機能を移植実現することで疲弊してしまったのでは何のためのプラットホーム作りだったのか主客店頭としている。

開発スタイルの世代交代という考え方を提示していくには、まだ充分ではないにしても、まさにBASICパソコンからPCプラットホームに移行しようとする流れの中でOEMメーカーが行なう仕事範囲と、Microsoftのような位置づけで開発をしていく流れを通信キャリアを交えて作り上げていくことが必要なのだろう。OEMメーカーの仕事を待ち受けているようなスタイルの仕事をしてきたソフトウェアハウスが最も危機管理をするなかで積極的な提案や活動を起こしているのもそうしたことが背景にあるだろう。フルセットのケータイ電話のソフトウェアを従来型のアーキテクチャのまま、ソフトキットとしてソース公開提供したとしてもうまく活用できるとも思えない。モジュラリティの高いプラットホームとして流通させるにはまだ携帯電話用に設計されたというOS自体が、日本の要求に呼応したものになっているとも思えない。普及の前からウィルスの心配をしてしまうような状況も高速なチップ性能をウィルススキャンに浪費してしまうのではPCの悪い意味での二の舞である。

何が携帯電話などの開発で大変なのかを、正しく問題認識しているかどうかが、プラットホーム作りに活かせる筈なのだとおもう。今後、Quad社が放つ新しい技術なども、物づくりの現場を正しく認識するメンバー達との協業やレビューあるいは共同開発といったワークで評価されていくのだろうと思う。新たな時代の中で、開発スタイルの世代交代を果たしていくためにはアプローチ自体の世代交代も含めて組織の世代交代などが必要となっている。色々な世代交代の中で新たな年の初めを過ごしているのは、新たな段階に移ったことの証なのかもしれない。Quad社のビジネス世代交代もみえてきはじめた。着実な仕事のステップをいろいろな形で実現していくことで楽しんでいくことにしたい。もう既に二度の海外出張をしてお客様や仲間との打ち合わせをしているのだが、新たな広がりに、手ごたえを感じている。多くの人と話しながら今年も頑張っていきたい。

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