業界独り言 VOL316 太陽と北風

どたばたとする中で、2005年が終わり新年を迎えた。開発規模の可愛い端末がアジアを舞台に開発が出来たことは大きな成果だったといえるだろう。一年前に、雛形の試作機が出来上がっていたとはいえ小型のFOMA端末が同様な設計を踏襲しつつもグローバル仕様のクワッドバンド搭載で出来たのには大きな流れの予兆としても後世に残ることでもあるだろう。無論、そんな開発の過程で生み出されてきた想定外の事象などは、傍から見ればとんでもなく映ることかもしれない。理想を掲げてひた走るクワッド社の路線に異を唱えることはないものの、成果を示さないと乗ってこないのには業界の元気の無さが原因でもある。そんな対極に居たエンジニアのK君が年を越えてメンバーとなった、口説くのに要した時間を無駄とは思わないものの今後の時間を大切にしていきたいと感じている。

ひたすら真面目に取り組んできた、そうしたエンジニアのK君ゆえにクワッド社のソリューションを使って手抜きとは言わないまでも自らの取り組んできたことが、容易に実現しうる世界を目の当たりにしても冷静に分析をしているようだ。自らの経験に基づいてきたメーカーの設計にとっては、チップセットベンダーの提供するプラットホームの特性などの仔細な部分で想定外となる部分もあるだろうし、互いの常識が通用しない部分などが起こることも致し方ない。そうした衝突を経て妥協と回避策を処理した上で想定外となるような仕上がりの端末として登場してきているのでもある。問題は、企画した端末が企画した価格で企画した時期に出来上がるのかどうかということが一番重要であり、そうした流れの中で成果を出しうるチップセットソリューションであれば素直に受け入れて評価することでもあろう。

最良のソリューションは自らが作り出すプラットホームであるのかも知れない。といって各端末メーカーが自由に開発するほどの余裕もリソースもテクノロジーも無いということもあるだろう。高邁な思想に基づいて、何かの傘の下でプラットホーム開発を進めているメーカーもあるかも知れない。長い未来を見据えた上での戦略でもあるのかも知れない。シリコンの上に画を描いて仕上げて試験をして性能を出せる状況にまで仕上げていくというサイクルを真剣に取り組んでいけるのであればいつかは成果も出るだろう。昨今のコミックと一緒でいくら良い作品を仕上げても印刷所の能力をどのようにして押さえるのかどうかで冊数が決まってしまうという状況などにも似ているのかも知れない。半導体業界の中で試作をしたりする余裕などはさらさらないのだろうし、一枚のシリコンの中にすら分譲地を用意して異なったマスクを引き受けるという状況なども現実となっている。

端末メーカーがチップセットプラットホームを提供することのデメリットも取りざたされている。外販するのは旧版の言い換えれば安定したバージョンとなりアグレッシブな機能追及をしているのは自社端末にのみ適用していくという流れである。これでは競争力のある端末作りには繋がらないことだろう。以前Quad社が端末事業を展開していた状況などもこうした状況だったかも知れない、無論同じチップを提供していてもブラックボックスとなっている部分などがあれば研究開発と製品としての技術提供とを両立させることは十分に可能であるようだ。これらは多分に事業としての成熟度にしたがっているのだろう。チップセットビジネスを展開しながら、技術開発と製品提供の両輪を回しながらファブレスで進めてくることが出来ないQuad社のノウハウでもあるし、それはビジネスモデルに由来しているからでもるだろう。国策でファウンダリー事業を興すのだという意見もあるようだが、誰が何を幾らで作らせたいのかは不明である。

シリコンの世界の戦いを挑む人たちが作り出したいモデルがQuad社のようなものであったとしても、どんな技術蓄積をしてきていてこれから将来に向けてどんなロードマップをその応用製品に描きながら技術追求をしているのかという点まで追求しているのかどうかは不明である。とりあえず、現在の資金余り状況の中で現在の技術の集大成としてのチップ事業に投資してコストダウンを期待したいというのが投資家の考えていることのようなのだが・・・。Quad社にとってのシリコンは自社技術を展開するための生産方法論であり、必要な技術は適時に導入していくのがベンチャーとしての流儀でもある。本社研究所で取り組むのはあくまでも無線業界を発展していくための技術であり、その背景に流れる時代の半導体技術に思いを馳せつつ進めているようだ。半導体を飯の種として作り続けながら改善をしつつ、サイクルを回していくのはCDMAをはじめとする核となる技術があるからに他ならない。

新年が明けたからといって、米国から新年の挨拶回りがあるわけではないのだが、既に2日からは本格的に稼動しているメンバーたちが大挙して訪問したりする時期でもある。新技術の紹介やらロードマップの改版などマーケティングや技術トップが次々とやってきて主要なキャリアやメーカーあるいは関連会社などを訪ねたりもしている。昔であれば、メーカー周りがもっと多かったように感じるのだが最近では、3G本格化の流れからメーカー数が拡大しているかと思いきや、実際のところ元気に物づくりをしているメーカーは少ない。チップメーカーのバトルがあるのではと考えている諸氏が居るとすれば、それは大きな誤解でもある。前述したような流れで携帯電話のベースバンドに特化したチップメーカーで利益を上げつつ技術を自力で昇華発展し続けているのは稀である。そうした渦中にいたと思しき新しいメンバーのK君がQuad社に飛び込んできた、その一週間あまりに彼が少なくとも達した理解はそうしたものであるようだ。

今、何をすべきかという点でのビジネス追求や、そのための技術導入も含めて、その後の方向性の中で開発追及していく流れについてをロードマップとして提示しつつ広く意識を共有していく、ごく当たり前の姿を実践していることも彼の感心した事由でもあったようだ。お客様からのフィードバックを真摯に受け止めて技術追求してきた成果は、前世紀末に提案したアプリケーションプロセッサ構想に対してのお客様からの非難を受けてのワンチップ技術追求でもあった。ARM9とDSPによりUMTSテレビ電話を構築することが出来るようになったのは、言い換えればお客様の前世紀からの要請でもあったわけである。今、そんなチップセットをリファレンスに懸命にドコモ仕様を取り込んだ端末メーカーもあるし、中国デザインハウスを使いながらエントリー端末として安価で十分な機能の国際ローミング可能なFOMA端末を世の中に出そうとしているメーカーもある。そうした成果などを見る新しい仲間には感慨深いものがあるようだ。

昨年末までの端末メーカーでの開発現場を知る彼が、感じる実際の現場で導入されていく流れとQuad社で進められている技術のギャップについてはある意味で日本メーカーでの物づくりの流れの変革の軋みでもあるのだろう。端末メーカーの開発スタイルを如何に改善していくべきかということに傾注しているQuad社の姿は、ごく当たり前だと思う反面、そうした事が世の中のメーカーの現状からは乖離しているようでもある。不思議なことにそうしたアクティビティを真剣にドライブしているメンバーはK君を取り巻く仲間であったりするし、熱い思いはどこかに向けられているものの実らない片思いのような状況を残念に思いながら、キャリアに向けた展開を3rdパーティを巻き込みつつの取り組みを続けている。現時点では、こうした活動は、あるメーカーにとっては強い北風を吹きつけられていると思われているようだ、しかし我々はあくまでも暖かい太陽政策を取り続けている気持ちに変わりは無い。太陽政策だと理解されて導入されていく別のメーカーが実績を上げられたあとに、二番手で乗ってきてくれれば有り難いものだと思うようになっている。

少なくとも太陽政策だと信じている私たちが、懸命に伝道師としてメッセージを続けて訪問活動をしているのも、ある意味で終末予言を伝えているエホバの証人のように捉えられているのかも知れない。危機を感じて飛び出したK君のようなエンジニアだけではなく、茹で蛙のようになっているエンジニアでは考えることにも麻痺しているのかも知れない。ビジネスを実践して社会貢献していくのがメーカーとしての使命であると最初に奉職した別の会社で私が学んだことでもある。会社が社会貢献しなくなったと判断したのならば、社会貢献できるように是正提案を可能な限り続けていくといった知人もいるし、去っていく人もいる。Quad社のビジネスはエンドユーザーに最終的に届ける前の段階までであり、結局のところ端末メーカーを支えていく黒子でしかない。昔自分自身がエンドユーザーと考えてきた人たちに、間接的ではあるにせよ貢献できるような成果を出したいと懸命にもがいている現在でもある。

 

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