VOL84 携帯でモバイルペンティアム? 発行2001/2/25

携帯のソフト開発が爆発しているのは、明らかなのだが・・・。それとは逆に技術者の夢は萎んではいないだろうか。開発リソースがショートしてキャリアの要求する時期に新製品を出しつづけていかなければならないという図式なのだが。8MBにも及ぶアプリケーションの世界を各メーカー毎に独自の環境として作り上げてきた匠の技があるのだと信じているのだが・・・。

チップビジネスを営んでいる上では、ユーザーが開発する製品機能に出来るだけマッチした機能・性能・価格を実現すべく腐心するのが私たちの務めでもある。当然、毎年出てくるチップのリリースには、ある時期までに機能集約を図って製品方向を定める必要がある。世界からみると「携帯でインターネットをしたい」という状態ではあっても、「している」という状況では必ずしもないそうだ。AOL買収を決めたキャリアは米国進出を考えてのことだろうが・・・。

チップ開発提供というビジネスが世界に根ざした上で使われる時期と製品寿命とを考えていくと難しい問題となって浮上してくるのは価格・機能・時期といったバランスである。ある意味で既に日本はショールームである。別にラスベガスや幕張にいかなくても町のそこかしこが既にモバイルインターネットの展示会である。電車のつり革につかまって読んでいる雑誌には製品紹介が広げられており、椅子に座っている人々は実際にそうした新製品をひけらかすではないにしても実際に利用しているのだ。気になるモデルも買って使っている人が身近にいて覗き込み、うんやはりあの色の液晶はちがうとか悩んでいるのかもしれない。

半年毎に端末製品を出していく必要があるのはメーカーの常であり、場合によっては三ヶ月ごとに出していくメーカーもあるだろう。アプリケーション機能は増大して、リンク不能な状態すら引き起こしている。チップ性能が不十分なのか、自分たちのインプリメントが不十分なのか考えている暇がないのかもしれない。機能や仕様はキャリアがどんどん決めて走っていく。余裕もなく疲れ果ててしまい技術者という名前の生産ラインのラインタクトタイムに合わせる女工哀史さながらの状況かもしれない。

疲弊している技術者であっても、自分達の理想とするところや現状認識している課題への腹案を持ち合わせているに違いないと考えるのは間違っているのだろうか。新チップへの機能盛り込みへのアンケートなどを行うといろいろな要望が出てくる。あるメーカーがCMで打った数字を引き合いに出して、DSPのMIPS数が不足しているという上っ面だけの話をされるメーカーもある。自身でDSPのコードを書いている立場ではない方がDSPのコードもHDLも開発している側に要求する内容とは思えない。具体的な並存してほしいアプリケーションを定義してもらうことを望んでいるのだが・・・。

アプリケーション速度の改善を求める声は、Javaなどの適用が始まった日本からの強い要望の一つではある。内蔵FLASH/DRAMなどの展開は必定であり、内蔵のサイズとしては8MB/4MB程度には、出来そうな状況である。内蔵することでノーウェイトの構成がとれるようになり高速アクセスが出来て実質的なMIPSが高速になるのだ。こうした展開によりアプリケーション速度も飛躍的に速くなるはずである。しかし、ユーザーからの要望はキャッシュを搭載してほしいとかそういった内容であった。携帯電話として必要な機能ブロックや日常的なライブラリが内蔵FLASHに展開されれば、速くなるという理解が得られないのはなぜだろうか。リンクした領域としてユーザープログラムが外部にあるからといってどれほどライブラリ以外のブロックで走行してしまうアプリケーションがあるのだろうか。

結局判明した事実は、ユーザーが走行するアプリケーション全体を掌握する状況になっていないという事実だった。このために、そうした議論が出来ないでいるようだ。日本中のメーカーがBASIC搭載のパソコンを開発していたのと同様な状況が、携帯電話で起こり、主要なソフトを開発したメーカーは移植ばかりを頼まれているというのが状況なのだろう。こうしたことから目先を変える意味も手伝いJavaの移植でiアプリという方向に走っているのかも知れない。kVMを高速に動作させるという命題に向かって各社が調整に走っている姿は少し業界を正常化させるかもしれない。メーカー毎のベンチマークが提供されたりするからだ。

ベンチマークを定義されることによりチップメーカーも具体的な行動がとりやすくなるのは明白だ。各メーカーに対して、プローブンなデータを提供することが出来るからだが・・・。処理速度を高速にする目的を消費電力という大きなキーワード抜きにしてキャッシュを搭載しろという要望をつきつけるメーカーとスマートな解決策を提示していると認識しているメーカーの溝は広がっていくばかりのような気がしている。携帯電話業界にIntelが進出したこともあり、これから「当社のチップはキャッシュ搭載」とかいったコマーシャルが出てきたり、「x86互換でIE動作」といったことすら出てきかねないのかも知れない。モバイルペンティアムの世界で携帯が動作するのならば、良いのだが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。