業界独り言 VOL120 Y君への手紙 発行2001/8/23

Y君は、自分自身で会社を興してソフトハウスをやっている優秀な技術屋である。色々な通信システムも手掛けたし最近流行りの2.4Gも手掛けてきていた。英語に臆することも無く海外にデバッグに赴いたりもしていた。携帯電話のシステムがコンピュータ化して肥大化する流れの中でインドの象の寓話ではないにしても全体が見えない技術屋を数百人集めて開発から試験までを実践しているのとでは隔世の感を彼の仕事ぶりには感じる。

元々は大手通信機メーカーの直営ソフト会社に就職した彼とは、一緒に仕事をした事も彼の黎明期にはあった。だがソフト会社特有の二次外注への発注や見積もりといった運用を突きつけられる中でソフトウエアの開発に仕事を見出してきた彼には、US向けの自動車電話の開発などを進めてきた過程などからも自分の所属している会社と自身がミスマッチしていると判断した結果会社を興して一匹狼として生きる路を選択したのだった。

アセンブラで開発してもバグもなく安定なシステム設計とモジュール開発が行えるのは、彼いわくインタフェースをきっちり設計しているから当然ですよといわんがばかりなのだが。そうした当たり前のことをシステム開発の経験値として学ぶ機会を与えあるいは共有することよりも日常の溢れる開発件名の消化のために見積もり発注といった事由に忙殺されてしまう事態を選択させてしまうのは正しいフィードバックループとはいえない。

日本の会社では、優秀な奴ほど忙しくなってしまうような気がしていた。わからない奴には見積もりが任せられないということなのかも知れないのだが・・・。判っている奴が、判っている外注を前提として見積もりを行い開発を任せて達成していくというビジネススタイルがうまく回ることを祈念してしまうのは神道の国だからだろうか。相手を信用せずに疑い、出来上がりの影響がないようにアイソレートする仕方は米欧の方法だったりもする。

Y君は、若手の学生を使ってソフト開発を進めていく内に、出来る学生やら、途中で放り出してしまう学生などの見極めもしつつのビジネススタイルで欧米風の感覚に近いものを自身のノウハウとして身に付けていき、そうした担当者同士のモジュール開発を円滑に進めるためのインタフェース設計に、より注力をしていったらしい。開発効率という観点で最高の成果が得られた事もあるだろうし、苦労した場合もあっただろう。

インタフェースを追っかけていくことでシステム全体の動作を掌握してシステムコンサルティング能力も自身として高めていくことが出来たのは彼の大きな成果であり評価点でもある。QUAD社でサポートエンジニアとして仕事をしつつ感じることは、実際のお客様のサポートをしている実態としての作業は直接設計に携わっている技術者と全体を見渡して的確な回答を与えられるコンサルティング能力が求められる職責である。設計経験の無いものは役に立たない。

技術者のエイジングという観点からみても、様々な開発設計に取組んできた総括としてコンサルティングをベースにして更に最先端の技術をシステマティックに追求していくという仕事なのだが、一般的なサポート窓口と呼ばれる非生産的な印象から受けるネガティブな印象が中々払拭出来ないのがヘッドハンティングなども含めた実情なのかも知れない。開発に携わりたいというのならばメーカーだろう。ただしCDMAなどの根幹技術に携われるメーカーは益々少なくなってしまっている。上位層に国内の戦場は移ってしまっているのだ。

システム同期を取らずに実現を図ろうとしてきたあるシステムが、アプリケーションの観点から同期をすべきかどうか模索を始めたらしい。動機は不純なのだが・・・。最近では社会貢献を打ち出して環境に優しい会社という企業広告をうっているキャリアなのだが、システム同期が取れていない端末に要求される処理の難しさと消費電力の量は矛盾に満ちている。自己矛盾に陥り始めた結果、上位のアプリケーションから見直しが始まろうとしいるのであれば世紀末の決断は何だったのだろうか。

技術開発が政治的な思惑の中で偏向されてしまうのはいたし方ない事態であり、ただしそうした流れを理解できる技術者が育成できているのかどうかという点が企業としての次の戦略の中で重要なポイントだと思う。戦略の是正をする段階になって支える技術者がOJTというキーワードで括られるメーカーとしての地力の蓄積になっていれば良いのだ。こうしたビジネスサイクルが回っていたのではないか思い返すのはY君らと仕事をしていた時代だったのだろうか。

「当たり前のことが判る技術屋がいないこの事態で日本はどうなるの?」と咆える私の尊敬する大先生の域までに達しては居ないのだが、実際問題として普通のこととしてCが判り、システムが判り、コンサルティングが出来るような技術者を探し出せない実態はなんなのだろうか。悪評高いユトリ教育のせいなのかどうかは知れないが、わかる技術屋を求めていくと昭和の卒業を境に難しくなっているような気がする。スタックとヒープの説明がスムーズに出来る人とクラスの利用しか出来ない人に分かれてしまう。

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