業界独り言 VOL141 究極の無線機は仕事をなくす?

無線端末が究極に近づき、所謂無線屋としての勘所が薄まってしまいそうな状況になってくるようだ。スーパーヘテロダインからホモダイン(いや最近の言い方ではダイレクトコンバージョンと呼ぶようだが・・・だが)への移行がチップセットベースで揃ってきたからだ。スーパーヘテロダインではどうしてもビートなどのIFバンド内への飛込みなどがあったのだがそうした問題から切り離されてしまうのだ。感度が課題だったのだが・・・解決したようだ。
 
800MHzであれPCSバンドであれ外付けのフィルタ次第で対応が容易になることにあるのは有りがたいことである。800MHz帯での応用などでは対応するフィルタだけは特殊になるものがあるかも知れないが既に虫食い状態の日本の800MHzバンドの実情で考えると流用することも容易になりそうだ。フィルタ屋との詰めさえ済めば安価に2.5世代の機器としてIMT2000仕様のシステムが構築できるのは数少ないと言われる無線技術者のリソース不足にも対応できるだろう。
 
ワークシェアという観点から考えると新技術で失ってしまうものは無意味な開発への投資なのかもしれない。とはいえ、既に無線機セットとしての究極なソフトウェア無線機としての要素技術が整ってきている。事実ベースバンド処理でFMもCDMAもGSMもGPSもサポートしているのだ。1.25MHzの帯域幅が上り下りで整理確保さえすれば、3Gのバンド免許が無くともiDENやGSMキャリアでも利用出来るのだから大きなうねりが生じそうだ。
 

こうした無線技術がソフトウェアと一緒に提供されることベースバンド屋だけで済んでしまう時代に突入するだろう。IMT2000で目指していた世界中で使える無線機を安価に実現するというのがGSMとCDMAの組み合わせで達成してしまう。WCDMAというチョイスが現在の開発環境で異論が高まっている状況で欧州などのGSM陣営にも繋がる答えになってしまいそうだ。性能競争という観点では、ベースバンド処理の実装方法がハードなのかDSPなのかで消費電力的な問題が浮き彫りになるかもしれないが・・・。
 
ベースバンド屋という分野は、少し前であれば変復調のチップセットを作るのに奔走していた時代であったのだが、自前で積み上げていくというオプションを選択していくという事の難しさからDSPで開発しているケースやHDLで起こしているケースあるいは買い入れるなどとオプションも多彩らしい。処理されるデータがZeroIFなどに変わり見えなくなっていくような状況で彼らはソフトウェア屋として位置づけられていくのだろうか。
 
「お寒いですよぉ、」ソフトサポートをしているT君が悲鳴をあげている。サポートしているソフト屋のお客様なのだが、先方が新人らしくなんでも質問を投げてくるようだ。残念ながらお客様なので「マイコン応用技術者」の資格を取ってからにしてくださいとも言えないのが辛いところだ。UNIXの経験もなく、そのままOJTによる実務教育といえば聞こえは良いのだろうけれども。学校で何を学んできたのやら、あるいは会社としてどんなサポートをしているのかは、解らないというのがお寒い実情だ。
 
組み込みソフト開発に大層な教育コースが要るわけではないのだが、せめてコンパイルしてビルドするmakeファイルくらい書けるのは当然ではないのだろうか。そうしたことの理解もなく協力会社やチップメーカーなどに質問で投げてくるのはどうしたものだろうか。開発工程や性能を握ってしまっているソフト屋という存在の大きさが、正しく会社の仕組みの中で認知されているとは見えない。経営判断するレベルでこうした事を認識できるような仕事の進め方になっていればと思う。
 
無線がチップ化されて、ハードがVHDLやCで書くようになり、ソフトで全て表現できる時代に到達しているのだが主体となるべきソフト屋さんはシステム的な感性を身につけたりすることも不十分なままに今までの流れに流されて製品をまとめるための連絡屋さんになっているように見受けられる。まぁ全てが、そうではないのだが傾向として見られているというのが危惧すべき点である。開発するプロジェクトなどの方向決定が、世の中の流れにそっていない場合にはより危険度が増してしまうのではないかと心配するのだ。
 
あまり心配には及ばないという意見もある。そこまで気を配っている会社も技術者も居ないあるいは少ないというのが彼の意見だ。現在の仕事の量から忙殺されていてそうした実情まで考える時間もないのも事実かもしれない。先進の通信機開発を進めている会社が併せてソフトウェアの開発プロセスの改善を進めている理由だった。そうした成果が現れてきているという見方もあるのだが、無線システム設計の技術者育成という見方には立てていないという気もする。そうした現在の通信業界での状況を正しく認識している人材が沢山増えて欲しいと願うだけである。

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