業界独り言 VOL171 シンプルへの揺り戻し

開発プラットホームの共通化話が、各社で持ち上がっている。盛り上がっている会社もあれば、言い出しっぺで撤退しそうな会社もある。といっても試作くらいは当然終わっている。実際の商品にするかどうかは別問題である。プラットホームの製作準備を計画的に進めてきたある会社は、国内キャリアの急先鋒として長年温めてきた端末コンセプトを花開かせる時代に突入した。そして一人勝ちであった。パケットとゲートウェイベースのプラットホーム構築をひたすら進めてきた成果がそこにはあった。そうした事を経験値としてアプリケーションプロセッサに向かったのは事実だろう。

二匹目の泥鰌を狙ったかどうかは不明だが、出来上がったチップセットを利用してもの作りを進めるメーカーも出てきた。実際にPDCでは、そうした実績が出ていた。それまでの業界からは考えられない状況である。自らがプラットホームを開発追求していく姿は、流行らなくなっているようだ。プラットホームを開発するよりも出来上がっているプラットホームの上に合わせ込んでいく方が手っ取り早いということだろう。開発期間を如何に短くして、良質なソフトウェアを載せこんでいくのかということに腐心したいからだ。無論、端末プラットホームをチップやソフトから起こしてミドルウェアの先進開発してきたメーカーには漁夫の利がある。

通信処理のモデムチップとアプリケーションの分離が叫ばれている。開発効率を低下させているのは端末プラットホームやOSであるというのだ。分離してモデムチップセットを1チップ化してもらいたいというのが本音かもしれないが、実際問題として第二世代のPDCとCDMAの無線通信制御の比較をしてけば、並存して互いに違った次元でありながらも競争している実情からはまだ先の話としてリソースを割く時代ではないようだ。第二世代のPDCを32ビット化して達成できた性能とプラットホームのある程度の実績は通信が複雑化したCDMA対応という流れからデュアル構成という流れに傾いたのであろう。

そうした前哨戦として昨年辺りに繰り出されたQuad社で開発したアプリケーションプロセッサの登場は組み込み王国の自負を持っていた日本の技術者のプライドを踏みにじったようだが、ユーザーニーズに応えようと素直に開発してきた米国の技術者には、そのシンパシーは伝わらなかった。ユーザーからの要望に素直に耳を傾けて開発研究してきた成果としてのチップ開発へ投入されたリソースは計り知れない。電源管理とシステム構成など異種のOSの結合や過去ソフトの継承あるいは次世代アプリへの流れなどテーマは数多かった。

シンパシーを無視したすがたがQuad社の驕りなのか、日本メーカーの驕りあるいは誤解なのかは、その時点では不明確だった。ただ日本の市場には通用しないのかもしれないと感じていた。有用な技術として研究してきた成果は世界には通用するはずと確信していた。しかし欧州勢などのEPOCなどへの取り組みにとってQuad社のライセンス体制などからコンペチター以外の何者でもないゆえにQuad社は中国・韓国・日本といったメーカーの採用に期待するのがベストなのだった。日本だけの特殊事情といえる端末販売助成金を前提とする価格差で成立している姿にとって外部からはカラーな端末自体が既に華美に豪華な贅沢品となっていてデュアルまでのコスト高は受容できないというのがQuad社が開発してきた構想への世界ユーザーから学んだ回答でもあった。

Quad社は、方針を変更してデュアルチップからシングルチップでのミドルからハイエンドモデルまでをカバーできるアーキテクチャー開発に腐心して開発環境としてのOSの有り様などの研究を続けてきたようだ。そんな中で、国産メーカーが開発したアプリケーションプロセッサベースの携帯端末が離陸しはじめたのだが、期待と現実はかけ離れていたようだ。オタクなユーザーが見た、サクサク感のある高速性よりはユニークなアプリケーション機能が評価されてしまった。アプリケーション性能として評価される部分がメモリチップの増加などでコスト高になった504シリーズを受け付けなかったのである。

シンプルなコンセプトとして繰り広げられたカメラ端末あるいはGPS機能が評価されて市場バランスが崩れそうな状況に突入している。504の開発完了で端末価格増加で売上増加を狙ったメーカーの戦略は大きく外れてしまった。といってもメーカーの戦略ではなくて通信キャリアの戦略であるが。シンプルに映る構成で追求してくるさまは、プロジェクトXなどでも著名になったメーカーなどの優勢からも伺える。端末差を吸収してJavaでアプリケーション共有を図ろうとしてきた戦略は通信キャリアの特性によっては意味があったのだが、端末チップがQuad社に占められているキャリアでは意味が見当たらない。

シンプルな構成で、性能を搾り出すという姿が正しいと思っていた。しかし、そうしたことを否定されてきた、「追求している時間がありませんや・・・」。開発費用の最小化が必要であり、そのためのハード価格上昇は止む無しという考えなのである。こうした昨今の組み込み業界の不健全さに疑問を抱いていた。端末価格とサービス費用のバランスを失った504の失敗は半導体不況での空席処理のマイレッジサービスにも似た工場稼働率の向上を狙った一時的な策でしか位置付けられていないのではないだろうか。おかしなバランスでは続くとは思えない。

シンプル携帯というものが、機能からみて楽しい差別化が出来ることで評価をされはじめているようだ。限定されたハードリソースを工夫して性能や機能を出していくという姿は私には健全な姿と映る。技術者がやる気を出せるのではないかとも考えるのだ。PDCとの機能競争・WCDMAとの性能競争という流れから次々とチップ開発が行われてきたという状況から、高性能なシンプル携帯を目指した次のチップ作りが起こす大規模なソフトウェア構造の革新が予定されている。今一番売れているチップで出来る性能向上の工夫で次の機種くらいまでは製品企画上は考えられているのも実情だ。アプリケーションプロセッサと繋ぐというお客様の掛け声はどこかに消えていってしまった感じだ。

アプリケーション開発の効率改善のためにハードウェアリソースを潤沢にするといった後ろ向きな戦略を採られていたメーカーは、やはり勢いがなくなってしまったように見える。市場からの強いメッセージは高くない楽しいシンプルな端末の登場を願っているように見えるからだろう。そうした実情から遠く離れたゴージャスなプラットホーム競争も相変わらず進められているのが3GPPの世界にはある。ゴージャスな開発プラットホームを先端技術と捉えて取り組みたいという技術者もいるのかも知れないが本質を見誤っているように私には見える。欧州の3GPP離陸延期が示された今、孤立する3GPPを支えるのは国内キャリア二社だ。

3GPPの足かせの無いもう一つの通信キャリアが進める、あらたな3GPP2の拡張という側面から端末メーカーが繰り出したI-MODE端末との競争放棄といった提案を受け入れようとしているらしい。異なったプラットホームのために持ち出したJavaの無意味さを認識されたことでもあるようだ。楽しい二番手という戦略で機能集合として大括りにしてしまうことの無意味さを通信キャリアが認識したというのは、この業界にとってエポックな事件である。恐れを抱いて相変わらず全方位外交を繰り広げる端末メーカーがプラットホームの一本化というテーマとは裏腹に国内外のチップセットメーカーと提携している姿なども見られるのだが。

端末のプラットホーム化を実績として果たしてきた野武士のようなメーカーがある。開発人員も他社に比べればピリリと引き締まっている。そうしたメーカーから仲間を向かえることになった。結果として製品開発の多くの実績を出してきたメーカーの中の開発事情などから、Quad社に対しての要望も人一倍強いと思われる技術屋さんである。自らが経営トップに切り出した転身の意志は、大きな波紋を投げかけてきたが、これからQuad社とそのメーカーの開発技術という観点からの交流がより深まるという良好なマリッジと考えられているようだ。こうした方策が出来るのは野武士のような風土がある、このメーカーだからかも知れないが。直属の上司に具申して済むようなテーマでは決してないと経験からも私は感じている。

シンプルな携帯を目指してビジネスと技術開発の分担の見直しや新しい競争ルールの選択などが起ころうとしている姿には忙しいテーマがたくさんあるのだが、将来の見えない中での忙しさとは違った爽快さがここにはある。中々伝えられないサポート技術者という仕事の枠を理解する技術者の増加を期待するものの不幸にして会社が業界から撤退を決められてから初めて自分自身の思いを自覚して決断するという方くらいしか、いないのも実情だ。感覚が麻痺しきっているのだろうと私は見ている。開発費用と業界規模のバランスシートを見て冷静に自分自身の方向性を判断できる技術屋がいるはずだと、まだ確信しているのだが、さらに秋には増員したいのだ。

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