業界独り言 VOL173 恥を無くせば国際派

開発投資という名前のギャンブルが横行している。着実な開発投資というものであれば、開発成果が積もっていくので紙切れになってしまうことはない。技術者達の血となり肉となって次の開発の精度が高まっていくということになる。不景気な中で、夏休みということであればゆったりと出来るはずの論理的な考えが通用しないのが最近のこの業界らしい。夏休みに休めている会社の開発プロセスは正常なのだと思うが、反面夏休みすら返上して勤務を余儀なくされている方達がさらに時間オーバーして夕方の食事を求めて工場周辺の夏休みに入っていない食堂を求めて流離っているのも、常軌を逸しているようだ。

携帯電話ということに、限ればメーカーは通信キャリアからの注文に従って開発製造することになる。通信キャリアの技術的な相違や現在のユーザーの状況、そしてこれからの展開など不透明な部分が多いのが実情なのだ。期待を込めて出した端末が結果としてエンドユーザーの評価が無ければ、追加の注文が滞ってしまい大変な事態になる。そうした事を回避する意味でも通信キャリアから出される仕様などはメーカー間の競争を促進すべくゆるやかな物になっているそうだ。しかし実際の流行先端を追いかけないと難しいのだが、最近は自分達の開発都合や技術的な面でのユーザー不在の開発に陥っている兆しがあった。

要素技術開発、次世代通信規格の追求、現行稼ぎ頭モデルの開発、FOMAモデルのコストダウン、欧州向けUMTS/GSM対応機種の開発、1x対応モデルの開発、1xEV/DOモデルの開発、無線LAN兼用データカードの開発、カメラつきケータイの開発・・・いくつあるのかはメーカー次第なのだが、もう一社でカバー出来る時代ではなくなっているのだろうか。全社を挙げて携帯開発に傾注している会社もある。協力会社の絞込みと自社技術者の増員とで理想的な開発シンクタンクを構築していくという壮大な計画に映る。中核をなすのは開発プロセスであり、教育プロセスでもあるだろう。新たな会社の文化を創造していくという点において新入社員からの育成は風土醸成には向いているかも知れない。

開発投資というものがギャンブルなのであれば、ビギナーズラックは有るものの、殆どの素人さんは負けてしまうわけで、先を見据えた達人ですら勝ちつづけていくのは難しい。着実に結実していくという開発プロセスであれば、どんなに協力会社に委託したものであっても自分達の技術として習得していくことが可能なのであると考えている。しかし通信キャリアとの関係が強ければ強いほど投資せざるを得ないスパイラルに巻き込まれていくのも実情らしい。今までの販売実績などからみても社内での説得力はそうした関係に重点をおくのは致し方ないのだから。変身しようとしている通信キャリアなどが如何にプレゼンテーションをしても「テンコ盛の開発案件のなかなので、御社向け開発チームはひとつしか組めない」とも正面切っていえたらどんなにすっきりするだろうか。

携帯開発競争の最中に、新技術の追求を軽やかに行い、思いっきり深く追求したある技術についてメディアを通じて一気に売り込み、セミナーを率先して開いて積極的に各メーカーにそうした技術を炊き付ける技術起爆剤のようなカリスマ技術者がいる。長年の組み込み開発の仲間でもある。彼は、リスキーであっても技術的に追及すべき範囲としての判断としては取り組んでしまう傾向に昔からある。無論、彼一人で出来るわけではなく子飼いのエンジニア達が彼と同様あるいはそれ以上ということを維持していくということがテーマである。「圧倒的な製品」というものを追求しているために、その圧倒さに隠れる品質上の問題などで、あるメーカーでは彼の会社を出入り禁止にしたりもしていた。

出入り禁止にしたところで、「圧倒的な製品」をメーカーとしては追求していく姿の理想として掲げることからもダミー会社を通して結局使ってしまう麻薬のようなカリスマ技術者でもある。開発プロセスが混沌としている会社では、委託する部署毎の要求仕様などもまちまちでそうした結果として自らの責任で起こしてしまった品質問題ともいえるのだが、スケープゴートとして血祭りに上げられるのはいつも出入り業者なのである。実は圧倒的な製品の開発精度は、結構いけていてレビューなどをしてようやく判明したのは単なるスタックオーバーフローだったりする。受け入れる側の開発プロセスがしっかりしていれば、品質問題にすらならなかったはずなのである。

今、彼が手にするのは圧倒的な製品であるSOCの極致ともいえるワイヤレスヘッドセットである。完璧なソリューションとして単純明快な構造にワンチップという設計極致は、他の追随を許さないものである。問題は、対応してくれる携帯電話がいつ出るのかということに尽きる。無論ワイヤレスヘッドセットとして、交換嬢という昔ながらのニッチ市場もあるだろうが、PCでもPDAでもなくやはり携帯なのである。恐らくヨドバシなどで店頭に並ぶ価格は3-4000円が良いところだろう。Quad社でも狂信的なマーケッターがいるのだが実際のメーカーが採用するのかどうかは別問題である。HMDと音声認識が対応してくれればサイボーグの世界になってしまいそうだ。

そんなカリスマな彼が目指しているのは、彼の会社の技術的カリスマ度の維持でもある。鈍重な通信キャリア達と機器メーカーの間で奔走してきた彼の会社も危機的な状況を通してリストラを敢行し、ピカイチの技術者になれるエンジニア達を残して育成してきたらしい。象牙の館のような大メーカーにいたという技術者などは、まず日本人であるということの原点ともいえる「恥」を無くすことから始めて、ようやく東南アジアも含めて東奔西走するカリスマ技術者の仲間入りを果たして、英語の障壁を取り払っていけるようになったらしい。彼と同様に怪しいカリスマティックなイスラエルや台湾やらの怪しい技術者と伍して交渉して提携していけるのが彼の求める国際派技術者だという。

ケイ佐藤も、このカリスマ技術者であるY氏との接点は長く、彼らはピコセル・マイクロセルという呼称が無い時代にAMPSで米国向けにTIA規格までも取得した日本発の技術開発の仕掛け人の仲間達であった。小窓の知己である東川もそうした仲間の一派ではあったが、開発プロセスという面で見た場合には、うまくまわすことが出来た一例でもあった。ピープルウェアではないが、楽しく出来るのが一番という方針が最も功を奏したようにみえる。東川とY氏が開発したタクシー無線向けのチップは4ビットマイコンでの無線機制御の極致といえる圧倒さがあった。タイムマシンと呼ばれた常時録音マイクなども当時の強い商品群だった。

開発プロセスの追求を掲げていた知人が、その本を出版した。彼は、尊敬する導師片山さんのサザンパシフィックで修行を積んだ「恥を無くした国際派」である。今は、品川の会社で組み込み開発の開発プロセス改善の旗振りをしている。同じような業界にあっても、オーラの強さが出る人には、やりたい仕事が出来るようになっているのかも知れない。「恥を無くせない人」は、これからの先の業界の行く末を見ていても居場所がないように見えるのだが、現在の有名無実の色々な開発テーマを全方位的に取り組む時代からの変化をどのように生き延びるのかを考えてほしいものだ。競争相手である韓国・中国のすごさを認識してほしい。

今、携帯業界がWCDMAに偏重してきたことで変調を来たしているのだが、前兆となることは三年前から見えていたことなのに、やはりデッドロックに陥ってしまった。タイムマシンでは過去は変えられないのだが、私にとっては変えられない未来でもあった。大艦巨砲で動いている戦況をとめることも出来ず、いまや身動きの取れなくなった戦艦大和・武蔵・長門などのように映る。三年前に、そうしたことに警鐘を鳴らしたはずの自分自身がQuad社でWCDMAのチップの開発支援をしているのは、私に下った天罰なのか、あるいは天命なのか。

自問自答しつつの日々が続き、恥を捨てられない仲間達の行く末を不憫に思ったりしている。関西の人たちは恥を捨てやすい体質に見えるのだが、関東圏の人たちはかっこつけが横行しているようだ。米国からは、「SLAM DUNK WCDMA」と呼べる技術者を探せという厳命が下っているのだが、モチベーションが維持できていないと思われる仲間にPINGを送っても梨のつぶてだ。韓国ではすでにSLAM DUNKを見つけてきたのだが・・・。さらに伸び伸びと本当の意味でWCDMAの開発に打ち込めるのがQuad社なのだとすれば、それも皮肉なものかもしれない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。