業界独り言 VOL195 少し無理をする

最近の気の利いた携帯電話機には、それぞれにそれなりの「少し無理をした」事があるように思われます。誰もが手をつけていないことにチャレンジするということを色々な機能の側面で実施しているかどうかという事でしょうか。モデムチップとソフトを提供している立場から言えば、それぞれのお客様に同等の機能を提供していることが目標ですし事実そうしたチップとソフトの両面を提供している訳ですから性能から言えば差がないことが目指している訳です。

しかし、現実には各メーカーの端末毎に差が存在しています。無論、こうした機能差についての実装方法などに興味があるのはメーカーの技術者だけであって、お客様にとっては単なるアプリケーションとして興味があるのか、あるいは使いやすいのかどうかということにもなります。同一のチップセットを使って差を見せるということには、ソフト上の工夫やハード上の工夫など色々あると思います。ハードを少し無理をして使うというのは、マージンにチャレンジするというのでは製品になりません。

ソフトで少し無理をするというのは、納期を厳しくするということでは決してありません。高速ワークRAMなどを使った処理では、すこし気合を入れて構造設計をして管理上の工夫などから安易な実装では得られない高性能を出したりすることが出来ます。無論、安易な実装でも高速化をしたいという向きにはJavaのカーネルのワーク領域をスタティックに割り付けるということがあるでしょう。気合を入れてやると必要なワーク領域そのものをダイナミックに高速領域に設定したりすることもあるでしょう。

実際にソフトで少しを無理をした実装で、他のメーカーと比較して全く異なった新チップを実装したかのように見える端末を開発した会社もあるようです。動画エンジンを工夫して演算処理を低消費電力にした会社もありますでしょうし、限られた資源範囲で可能な限りの性能を実現して標準となる動画コーデックを実装した会社もあるようです。無論、機構的に少し無理をして光物のケースにして人気を得ているものもあるようです。見た目には、まったく差が判らないものの設計方法で、少し無理をして新たな方法論で開発しているという会社もあるようです。開発後のバグが少ないといったような評価は中々表立ってこないものですが・・・。回収したことがない会社という評価はあるようですね。

少し無理をするというのは、何か手が出せそうな印象の中で開発担当者のモチベーションを維持しつつ開発を続けていくためには有用な方法だと思います。自社技術として捉えている分野では、こうしたすこし無理をするということは良い文化を創るのにも適しているでしょう。逆に、自社技術として自分としては捉えていることで、少し背伸びをして無理をしようとしている人に対しては無意識にプライドを傷つけてしまうということも、あるのかも知れません。会社としての文化醸成ということは難しく時間の掛かるものなのです。すこし無理をするということの各自の積み上げで時間をかけて進めていくというのが良いのだと思います。

かなり無理をしている会社も、とうぜんあるようです。これでは破綻するだろうなと担当者が思うような仕事では、モチベーションがあがるはずもありません。限りある原資から投入された開発という仕事が後進の育成に役立つような生きた金の使い方になるべきなのですが、不景気な時であるがゆえに、そうした観点を大事にしたいものです。単に予算を絞るだけということでは、仕事の仕方が回らなくなるだけなので先細りになってしまうだけです。お客様の支援をしていると、短期的な解決策を求められることが多いですが、根幹の修正をしていく為に最良の効率を探しながら対応しています。

開発技術者も経営者に対して提案をして、開発スタイルへの変革投資と現実の仕事の進め方についての工夫との両輪を回していくべきでしょう。かなり無理をするとということと少し無理をするということは単に会社としてあるいは組織としての実情においての相対的なものに相違ないと思います。自力がついていくことで自分達にとっての少しの無理が、他からみた場合にはかなり無理しているのではと映ることも多いでしょう。隣の芝生が青く見えるものかも知れません。青い鳥症候群に陥る前に、自分で出来ることを考え直してみることが必要ですね。

最近の日本の携帯電話の開発ではソースファイルが300MBを越えてしまい、デバッグファイルだけでも40MBを越えてしまうようで、ある意味でデバッグツールの耐久テストにさえなっているようである。開発者達の中では、バベルの塔を仕上げつつも足元をシロアリが歩いて食いつぶしているようにさえみえるのかも知れない。モチベーションの耐久テストをしている・・・そんな中で少し無理をするということに意味が無いのではないだろうかという意見もあるようだ。確かに極限環境で開発を続けている中で、少しの無理がたたって失敗したというような事態を招いたときの責任を負いかねるというのかも知れないのだが。責任を負ってくれるような、気概のある責任者でありたい、あるいはあってほしいとは思いませんか。

そうしてまで得られた「少し無理をした」結果を良かれ悪しかれフィードバックして反省するサイクルが正しく回るような仕組みを会社としては持って欲しいものです。誰もが歴史に学びつつ未来を目指しているわけですから、そうした中での取り組みという試みには正しい記録と反省とをセットにしてほしいものです。失敗したらすべてを捨ててしまうような会社はないと思いますが投資した費用をそのまま捨ててしまうことについて一度考えてもらいたいものです。そうしたデータや資料を誰もが回顧参照できる仕組みが会社には必要なはずです。失敗したからといって封印しても繰り返すだけです。

かなり無理をしているのでは・・・といった印象の会社でも、中にはいってみると、意外と少し無理をしているだけで済んでいるんだなといった感じの表情の明るい技術者の顔にであいと安心しました。現場の方々の眼が生きているです。この技術者達を支えているのは経営トップの力なのでしょうか。期待する意外な商品が出てくるそんな雰囲気の会社が、こんな暗い雰囲気の経済状況を吹き飛ばしてくれると期待しています。我が家では、早速期待に膨らむ新築の家の為に限定カラーの洗濯乾燥機を、このメーカーに発注しました。受注生産ということでしたが時代を変える商品だと我が家での評価は高いものです。

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