業界独り言 VOL235 新人のOJT 発行2003/6/5

足掛け五年目となった今年、五度目のワイヤレス展示会の季節を迎えることになった。当時と比べると、ベンチャーらしかった雰囲気からは大分変わってしまったかもしれない。気が付けば、この四年の間に出逢ったお客様が今は仲間としてさらなるお客様との間の血縁関係を深めているというのが実情である。業界は2HOP範囲という、言葉が当てはまるのはこうした血縁関係により増幅されているのかも知れない。そんな中で独り言を書き続けてきた成果なのか、最近では掲示板への書き込みをアクティブにこなすOMも現れてきたのだが、期待する中核となるYMたちの意識には火がつくのは、まだ時間が掛かりそうだ。知己たちに向けて、夏の挨拶も兼ねた展示会の案内状を送付するのもここ数年続けてきているのだが、今年はいかなものか。期待されているのならば送るべきだろうし・・・。

色々と動きのあった先月は、書き込みの頻度も多く独り言の月間発行記録を更新したかと思われる。最近では、メールを待つわけでなく直接ホームページを巡回している方も多いようで、何か反応があるのかと期待をしたりもしている。四月から加わった仲間は、入社時期が遅れたために、研修時期を逸してしまっていた。この為にセルフラーニングの日々が続いていたのだが、お客様が米国に一週間コースで仕上げツアーに行くことになり、これを機にサポート業務を最初の米国業務としてOJTとしていくことになった。受け入れ側のリソースとお客様の開発のバランスに成り立っているのが我々のビジネスなので時期を逸すると中々時間が取れないというのが実態でもある。無論、部署によっては異なった事情もあるかも知れない。人は欲しいけれども、受け入れ態勢と教育のタイミングはよくよく考えて計画的に行うことが必要になる。

最近では、運転免許を持たない人も滅多に居ないので、そうした面においては私の経験したことなどは役に立たない。実際問題、初めて米国オフィスにレンタカーで向かう彼にとってのナビゲーションについては私は役に立たないわけである。彼は、おそらくバスに乗り込むことも無いだろうし、トロリーに乗ってメキシコに行ったり野球場に行くこともないだろう。気軽に自分の運転でそうした行き先に行くことが出来るというのは素晴らしいことであると私は思うのだが、制限のある暮らしをしているからといって、つまらないということは決してない。価値観の問題だと思うし人生の楽しみは色々な意味での精神的な加速度の体験なのではないかと思うのである。加速度を楽しもうと、前向きに暮らしていくと次々と障壁が出てくるし、また同士も現れてくる。結果、ますます人との付き合いが増えて加速度は増すばかりである。新人とはいえ、経験深いN君はそうしたことも飄々と交わしていくような感じがして頼もしい限りである。

限られた条件の中から、自発的にテーマを見つけ出してOJT研修を進めていくには個人の意識が重要である。お客様サポートという錦の御旗に基づいてサンディエゴのメンバーと共に問題解決をしていくのは大きなチャンスでもある。誰がキーパーソンなのかが明らかになるというのが一つのポイントだし、サポート仲間の経験深い中から繰り出される様々な方法についても目の当たりにして学んでいくことができる。日常の仕事を通じて背中ではなくて、電話会議などを通じてお客様との質疑応答をサンディエゴメンバーとの間の相互の理解の確認を果たしつつの進め方や、実際のソースコードを通じての対応などを示していくということ自体は単にCCを入れたり、同席させたりするということなのだがある意味で徒弟制度のようなスタイルといえるのかもしれない。初めての出張勤務でオリエンテーションもそこそこにお客様との対応に当たってもらうということは無謀というよりも、彼に対する期待でもありそれを通じて彼の本来の力がより発揮できるようになってほしいからでもある。

実は彼に特に技術的に教えることなどなくて、この会社の仕組みの中でどのような仕事の進め方をしていけば、ゴールであるところのお客様が開発する物づくりがスムーズに達成できるのかということに向けて意識を働かせるということがやはり一番大きなテーマであり最初から、そこに軸足を置いたトレーニングを受けられるというのはある意味で羨ましいとも思いたくなる。当人は大変なのは重々承知なのではあるが、周りで支えあいつつ仕事を進めている会社であるということも、また身をもって学んで欲しいとも思うのである。オープンマインドで進めている会社の雰囲気を、まだ自らの意識が一人の異邦人であるような感覚を通じて学んでいくためには周囲に日本人など居ないほうがよいと思うのである。無論、電話やメールで繋がるのは事実だし、また彼らが暮らしている時間帯とのタイムラグについても理解しつつ、彼なりの仕事へのバランス感覚が生まれれば大きな意味がある。

実は時差は、日本での仕事でもお客様との間においても、存在しているのがサポートという仕事の性ともいえる。想定される所要時間が発生するのはお客様とのインタラクションの結果でありお客様がデータを取得したりする間に自分たちは待つのではなく休むというのが望ましい姿でもある。お客様がコンタクトをしたいときにレスポンスしていくというのがサポートの期待される姿なので、お客様がある程度時間が掛かると思われる事態に突入した場合には積極的に休むということである。そんなこともあり早くに帰社するのは、そうした状況の結果である。夕食を終えた中で受け取ったデータ解析などを行い、前処理を施して無駄の無い後工程の解析チームに繋いでいくことで解析サイクルの完成度を高めて開発サイクルを縮めていくのがサポートという仕事の有り様である。だから本当はもう少し時差のある中東辺りに暮らしているほうがよりよいサポートが出来るのかも知れない。

開発するお客様の意識が変わり始めてきたという事も実感したりするのは、互いの持分を理解しつつ最大限の効率を引き出そうという意識に変わってきたと思えるからでもある。無論、無体な要求を出してくるお客様もいるのは事実だし、そんな仕事の仕方で良いのかと心配するお客様もいる。良化したお客様のサポートを通じて、結果としてそのお客様の製品が品質良く出荷されていければ会社としてのサイクルは維持できるので、まあよしとすべきである。基本機能の充実を図りつつ、周辺機能を網羅していくというビジネスモデルはQ社の目指している姿であり多くのユーザーと共に開発を進めていくというビジネスモデルについて二匹目のどぜうを目指している会社もあるようだ。幸いにして、こうしたライバルメーカーの登場こそビジネス良化に向けてよいカンフルとなるので、このことはQ社にとっても良いことだろう。

今、UMTSの開発支援を通じて感じることは、基本機能の実践実現に必要な技術リソースを併せ持ち、着実に邁進していこうとする会社が少ないことであり、リソースバランスを崩した開発が続けられなくなっている実情から破綻開発からの改善ストーリーよりも今の延長上としての仕事の継続しか出来ないという感覚の会社が多いことでもある。そんな状況は、Q社のUMTS開発においては追い風とも映るので、Q社の中で取り組むUMTS事業というビジネスはかなり刺激的な世界でもある。矛盾という言葉よりは、全てをカバーすべしというスタンスで進めているQ社ビジネスの進め方は、ある意味で日本メーカーの進め方と何ら差はないと思う。自由な心意気を持つ日本人エンジニアが一人、またこのマーケットに向けて製品担当として飛び込んできたという話が入ってきたのは、メーカーでの仕事の閉塞感を映しているからかもしれない。

3G撤退したメーカーから飛び出してきたエンジニアがQ社をフル活用しようとするメーカーの支援ビジネスに入ったりするのは自然かも知れないのだが、3G開発渦中のリーダーカンパニーからもエンジニアが移籍してチップ担当のマーケットになろうとしたりする様を見ていると、なにか日本という国として方向是正しなければならないのではないかと感じるのだがどんなものだろうか。無論私達の意識として開発メーカーの方たちにソリューション提供を効率よく果たそうとしている素直な心情からいえばどちらもウェルカムなのではあるが、メーカーとして物づくりで破綻していくようなことに向かっているのではないということを確信したいと思うのである。現在の状況を開発不況とでもいうべきなのかどうかは、判らないけれども、新たな開発スタイルなどに生まれ変わろうと業界全体が胎動しているのかもしれない。仲間が増えることを喜びつつも、開発スタイルの良化が進まずに飛び出してくるさまには、憂いを感じるこのごろでもある。

新人のOJTを通して実は試されているのは自分自身の有り様なのかも知れないと考えている。携帯業界に向けてチップメーカーとしてあるいはソリューションメーカーとして期待されていることを理解しつつ次の戦略を考えて実践していくフェーズに入り始めているのだろう。広がる仲間の血縁関係が、新しい時代の有り様を考えさせてくれる良いきっかけを互いに作ってくれるように思うのである。次の四年間をどのように過ごしていくべきなのかの自分自身の戦略を考えさせられるという私自身のOJTなのかも知れない。業界に向けて今、何を貢献できて、将来に向けて何を試せるのかという二つの仕事をこなしつつ個人として若手に向けた教育指導などの仕事にも手を染めていきたいと思うこのごろでもある。会社という仕事が終わったときにはコンサルタントあるいは教育者としての自分をイメージしているのだが、どうなるのかはまだ判らない。新人のOJTはリーダーとしてのOJTでもあるのだろう。試されているのはどちらなのか。

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