業界独り言 VOL242 自宅建設を終えて判ったこと

計画に基づき11月に着工して、古家の取り壊しやら整地をへて地鎮祭はいちおう執り行った。土地の神様としてのお願いをサルタヒコ大神にお願いするわけである。お祓いの後には、家の形をした陶器のいれものにヒトガタなどをいれたものを地面に埋め込むというものである。鍬入れなどの儀式を経て、神に奉げた野菜や果物、乾物などは、そのまま自宅の食膳を飾ることになった。本来であれば、上棟式なども行うものらしいがRCと木造の混構造という住宅において、いつが上棟なのかということの定義が曖昧な気がしたのと忙しくて対応しきれないということで、こちらは除外することにしてもらった。無論最近では、地鎮祭そのものも執り行わない事例が普通だというのであるから、無神論とはいわれないですみそうである。

旗ざお状の土地の竿に相当する部分には、実は隣のアパートの階段や物置が越境していることは予め契約の段階で知らされていた。近々立て替える際に大家がきちんと直すという一文の取り交わしが土地売買の段階でも再確認されていた。しかし、実際に越境した場所を借家として住んでいる住民とは、私たちにとっての隣人なのである。問題が単純ではなかった。購入当初、空き家となっていた古家の竿の土地には我が家の如くにしつらえた鉢植えが並んでいたのであり、これについての撤去のお願いなどを筋は通るというものの購入を取り扱う不動産業者を介して進めてもらったのはいうまでも無いことではある。越境のほどは図面では2メートル幅あるはずの土地に30cm以上もせり出しているのである。自宅を段差の無い構造にすることなどから、1階のフロアが階段で三段ほどの高さにせり上がってしまいアプローチをスロープで構築しようということが隣地の物置などを塞いでしまうことになってしまった。まだ工事は始まらないものの、気まずい雰囲気ではある。

隣地との問題は、工事でも起こっていた整地した土地に降り注いだ雨は従来であれば古家の屋根が受けて雨水として下水に流し込んでいたわけであるが、整地して外溝などを一旦リセットしてしまったために露出した土地のみになってしまっていた。これがもたらしたものは昨年末に起こった大雨の際に工事で仮設に掘り返していたガスや水道配管工事の土地を流れ出した水の流れで管路を露出させるような事態になってしまった。工法の想定や環境への配慮などが必要なのが個別の注文住宅を特定の土地で作ることの難しさであろう。いってみれば立ち上がってしまえば安定なソフトやハードが立ち上がり時点のみで不安定さをかもし出すようなことに似ている。ブートストラップを安定に立ち上げる技術や心配りというものが建築においても必要なのだ思い知らされた。そしてそれを解決するには工事日常での周囲とのコミュニケーションに他ならない。ケアできないほど多重に仕事をこなしているような業者では、中々現場で起こっている問題に対応できないのはソフトウェアと一緒で問題が起こる段階で優先度が上がるのも同じである。

RC工事が始まり、鉄筋の溶接くみ上げが出来て型枠が準備できておそらくコンクリートミキサーが大量の生コンを投下して振動をかけつつ充填していくという流れが終わるとしばらくは養生させて固まるのが終わるのを待つ以外にする仕事はない。しかし、ここでまた問題が発生した工事用トイレの施錠が不十分でかつ未処理のままで放置され、臭害を周囲に引き起こしたのである。工事からは待つ以外にすることがないとはいえ日常の確認を怠ってはいけないのである。そんな問題を引き起こしているとは知らずにコンクリートが立ち上がる頃に現場を訪れた我々を待っていたのは周辺住民のクレームの嵐であった。建設業者である監督が中々現場確認に来ないのでクレームをいえずにいたというとんでもない事態だったというのてある。問題を現場で覆い隠そうというのは、どの業界も一緒であるがボロはすぐ出てしまうのである。やるべき作業やプロセスが普段行われていた、開発主体のまとまった分譲建築ばかりをしていたというのが原因でもあるだろう。要は開発プロセスが期待するものと合っているのかどうかということである。

RC作りの壁の無い打ちっ放しの工法ということの難しさは、表面仕上げではなくて実は必要な要件を網羅した設計を完遂できるのかということに尽きるようだ。こちらから要請した要件は、段差をなくした床と、床暖房、細かく指定した配線工事などであり、インターホンや照明スイッチ、通常の住宅では電気工事のみで100万円ほどが、この業者で見込んでいる額だそうなのだが、LAN配線やBS/CS配線工事を依頼していたことなどから倍近い額となってしまった。壁がある構造ならばつぶしが利くのだが、打ちっ放しでは確実な配管の処理と穴あけが必要なのである。工事進捗の話の中で、床暖房のリモコンの配線を忘れておりましたという報告が設計士の方からあり、配管が露出するということを聞かされていたのだが、実際に出来てみると配管は無かった。他の立ち上がり配管が集中している壁に穴を開けて解決したのだそうだ。失敗と思ってみても解決策は色々あるかも知れないということなのかもしれない。

さて我が家ではアナログWOWOWとデジタルBSとPerfecTVを視聴しているという事情があった。今回の地域は共聴システムとしてのCATVが配置されているみなとみらいビル群による難視聴地域ということらしかった。さらに細君の希望もあり110度CSでやっているコンテンツにまで手を伸ばすことになっていたことも合わせてとりあえず有料CATVにも加入することにした。配線系統については、ISDNによる二回線処理で電話とFAXを処理することにしていたので、機能コンセントには、賑やかな端子が配置されている。複雑化するシステムを単純化する一つの解決策として四衛星対応のアンテナというものが見つかった。CSとBSの二つのLNAが搭載されている二焦点型のパラボラである。見た目には、一つのアンテナなのだがLNAの数だけケーブルは二系統引き出されている。CATVの帯域に対応したブースターとCSと110度BSにまで対応するのは難しいらしいのだが、CATVの業者が接続に来たときには「配線が間違っているので修正しました」という説明をして確かに地上波とCATVは受信可能となっていた。

翌日ようやく、秘蔵のアンテナを設置して接続して方位を探ろうとしたものの信号が受からない。説明で聞いていた、屋根裏のアンテナ配線ボックスを覗き込むとBSパラボラと書いてあるケーブルが未接続になっていた。多分対応するCATV業者が指定したブースターがBSを更に受け入れる仕様にはなっていなかったのかもしれないのだが・・・。説明を受けた図面では、BSとの混合ユニットを設置することになっていたので工事仕様誤りである。生憎と今日は建築業者が休みなので、クレームのメールを入れて修正させることにした。ネットで対応するユニットを探すとCATVに適用可能でBS110にまで対応可能なブースターはあるので混合ユニットと合わせて変更してもらうことが必要なのだと思う。まあ、工事業者も工事の段階でアンテナは客持ちということで確認が取れないという事情があったのもか知れないが接続確認程度はしてほしいものである。現場に行かないと試験が出来ないというのでは、ソフト開発の現場と同じではないか。

BSとCATVのチャネルをカバーするという仕様が最近では、BS110度をカバーするという意味も含まれてきていて額面の理解と現場の対応などが混乱しているのはいたし方ないようである。結局仕切っているはずの監督も、建築設計士の方も専門的な内容には介入せずに、そのまま私が提出した仕様を工事業者に流していたようで互いの理解のレベルを合わせることの難しさを痛感するのである。結果として私が知りたいのは工事業者が理解したはずの工事図面の提示を求めることでしかないのだが、弱電工事一切を任される業者は、インターホンの工事も電話線の工事も照明器具の配線もLAN工事やアンテナ工事までもがカバー範囲となっているのが実情で彼ら自身も理解が充分であるとはいえないようだった。機能コンセントとしては、BS、CATV地上波、LAN、電話、FAX、AC二系統が配備された。将来のテレビが薄型化して配置変更した場合なども想定した場所に配線を予備としてしておいたし、テーブルの両端には互いのパソコンがテレビ機能が追加された場合や、和室に篭って仕事を夜する場合なども想定して五箇所に配備した。一箇所には、CS放送用の端子を追加していた。すべての機能確認が終わるのは少し先になりそうである。

電話工事屋が来て、気が付いたのは二台もっていたTAの一台はルーター機能があったのだがFTTHの時代になり、シンプルなもう一台のみにしていたのだが、これには実はDSUが付いていなかった。引越し元の家には、買取の旧型の大型DSUが着いているのだが、まあ予備品として回収済みのDSUを特別に無償でつけてくれることになった。この八年間の間に技術進歩は著しく最新型ではないにしてもDSUが非常にコンパクトになっていた。まあ、最近ではISDNは人気がないので進歩は止まっているのかもしれないのだが、我が家のシステムはNTTから表彰されるくらいの仕様になっているのではないかとおもっている。i-numberにせずにダイヤルインで、そのままISDNをオリジナル仕様どおり使っているしグローバル着信機能の裏技なども使わずに正々堂々と料金を払っているのは今時化石のような存在かも知れない。まあ、FTTHの設置に際しては、移転ではなくて、廃棄と新規という手続きを進められた。新規加入であれば費用が安く済むのだが移設だと費用が高いのである。ベーシック契約という高い費用を払い続けているユーザーが他社FTTHに乗り換えしないための施策なのかもしれない。相変わらず一年経ってもFTTHのONUのダイナミックループは逆立ちを続けていてNTTがこの事業を大変な費用を賭して行っていることのスタンス表示を続けていた。FTTHの引越しは実は一番簡単でルーターが設定を記憶しているので何の問題もなく立ち上がってしまった。

RC作りにする中で、工事途上問題となったのはステンレス一体型シンクにも起こった。長さが4メートルにも近づく長いシンクを一体くみ上げした状態で搬入するという業者からの通達に対して、RC作りの1階に搬入するにはドアから入らないのである。高さ85cmと細君が指定した高さの直方体構造のものをドアからキッチンに持ち込むことは出来ないというのである。隣接の段差の上にある家の横を通してもらい、庭側からおろして搬入するということでなんとかなりそうだということで監督が問題を起こしてきた隣の家に話を通して、一応許可を得てもらっていた。搬入が終わってみると実は、シンク業者が分離して物を納入してきたらしく、なんの問題もなく工事が終わったというのである。コミュニケーション不足あるいは突然の仕様変更はよかれと思って行われても現場には徒労感や混乱が生じるものである。なにしろ立ち上がっているコンクリートの壁に合わせてカスタム仕様に作ってもらったステンレスシンクには予備がないので工事するほうも疵をつけたりしないように最新の留意を払って工事をしようとしているのである。

さて、他のキッチン周りはどうなったかというと、今年の三月に購入手配するつもりで見積もりをとっていた無印良品のリサイクルウッドのキッチン収納は、出荷停止処分になっていた。理由は、最新素材であったリサイクルウッドの強度不足による顧客クレームが出たことによるものらしい。強度不足といってもおそらくはユーザー側の仕様を越えた使い方であろうが、ソフトウェアと違ってこうした場合には製品としての機能不足あるいは商品生命の命としての風評などが立つことを恐れての製品改良を余儀なくされるのが業界の慣わしでもあるようだ。もともとシンプルな造りが気に入っていて選択していただけのものだったので、どうような造りで何とかして欲しいと頼んでいたところ結局建具業者で作ってくれることになり、無印良品以上のできばえで安価にカスタム仕様のキッチン収納が出来上がった。軽いアクリルの嵌った扉の仕上げも同様なコンセプトである。最初からこれでも良かったのにというのはユーザーの立場であるのかも知れないのだが、要望の曖昧さというものを事例として参考に提示したものが必達の仕様として受け取られてしまうのではないのかというのは他山の石になるやも知れない。

同様な話で購入できなくなったのは、気に入っていたクックトップのマジックシェフのものが丁度製品切り替えの時期となり在庫がなくなってしまったので今は、お売りできないということが間際になってから判明した。なにしろステンレスシンクにカスタム仕様の穴をあけるのでクックトップとセットで購入手配が決まっていないと始まらないのである。焼き魚機能のないクックトップという選択肢から結局当初には除外していたフランス製のロジェールにすることになった。五徳がないので中華なべの使いにくさについては細君も気になっているものの他の点では使いやすさに気に入っているようで、今では中華なべをこのクックトップで使えるようにするために燃えているようである。何か金属の輪のようなものがきっとありそうな感じがしている。ユーザーが当初から、これだけは譲れないといっている仕様だったはずのものを実は取り下げてしまうのも身近にみて不思議に感じている。

夫婦二人での気楽な暮らしも、下町暮らしですっかり細君も車の運転からは遠ざかってしまい、いまではどちらも自転車を使っているのだが(ちなみに私は運転免許も持っていない)、自転車の収納についてはコンクリート構造が決まったときから一台は天井から吊りたいといって、当初の担当SEだった建築設計士でもある設計事務所の社長とのやりとりでは話をして互いに納得していたはずだったのだが、実務が始まり、担当の設計士の方との実務の詰めが始まる中で当初の社長とのやり取りが色々とこぼれていて自転車の話はすっかり落ちていた。話を再提起して出てきた案は、壁からの突き出したパイプという案だったのだが金属が出っ張っていることについては危険なこと当初提案したのは吊るためのベースだけをつけてくれればSカンをつけて済むのにという話を再度つめてようやく実現した。SEが切り替わるときのやり取りは仕様の取りこぼしなどが多発するのは納得するものであった。

きめ細かい仕様を確実に仕上げていくには、一年余りもかけても中々到達せずに、最後には引越し準備に追われてしまい、それが終わっても積み込めなかったものがかなりあるのは仕様以外に物理的な機材を置き忘れてきたりしている。小さな引越し便で二度目の仕上げの引越しを敢行してようやく集約を迎えることになりそうである。ともあれ、基本線からいえば、コンクリートと木造という混構造の住宅を依頼してようやく期待以上の家が出来上がったのは事実である。木のにおいが豊富なRC打ちっ放しの壁を見ていると不思議な気になってくる。仕様や要求が無体な夢想のようなものに映るかもしれないものが、熱い思いに支えられて追求をしていくことにより求める答えに近づいていくのが、家作りなのかもしれない。既成の住宅プランに合わせて作られる人もいるだろうし、あまり関心もなく人と同様に家を求める人もいるのかも知れないのだが。少し世のなかのギアから外れてしまった私と連れ添っている細君も含めてユニークな家族なのかもしれない。この箱(ハードウェア)をどのように使いこなしていくのかというのが私たち夫婦の暮らしぶり(ソフトウェア)としての追求がこれから始まることになる。これがスタートラインなのである。いま、私たちはペーパーマシンではなく実機を手にしたのである。

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