業界独り言 VOL244 不死鳥の如く・・・

知己が課長に昇格したという報をきいた、ただしメールの文面からは元気が感じられなかった。当人曰くは「降格」であるということなのだが、果たして実態はいかがなものか心配になった。他の若手達も課長登用されたらしく、まずは合わせて彼らの昇格祝いを行おうとメールを送り、元気付けの夕食をご馳走しつつ話を水曜に聞くことにした。電機業界では一般に水曜日はノー残業デーという設定のはずなので、快諾の返事がきていた。当日は、ビッグサイトで展示会の説明員で駆り出されていたので、余裕で待合場所に向えそうだった。最近のりんかい線の開通に伴い、横浜からは湘南新宿ラインによりビッグサイトは、近くなったし。また大井町や品川シーサイドから京浜東北あるいは大井町線、京浜急行への乗り換えも容易となった。横浜地区の知己に向かうには、とても便利である。逆にゆりかもめの利用は、縮退するような気がしてならないのだが・・・。

知己の仕事分野は、無線機の開発であり業務用と称せられる範囲のそれはシステム開発も合わせて行う特性がある。世の中のデジタル化の煽りをうけて、さまざまなFMで済んでいた無線機がデジタル化して多様な機能を組み込むことが望まれてきた。こうした業界は、一般に携帯バブルに踊らされた結果、他の通信技術に向けたリソースや蓄積された人材技術については散り散りになったりしているようだ。会社の利益を稼ぎ出す携帯の事業に邁進していくのは企業としての当然の姿と映るのだが、社会貢献というキーワードで見れば、社会を構成するさまざまなサービスに向けての無線技術を提供していくということについての責任もあるはずなのだが・・・。お客様毎に存在する周波数セットやアプリケーションを、業界として規格標準化を達成していくには、業界自体が疲弊しているようなのである。

ともあれ昇格した知己たち三人を祝い祝杯をあげつつ夏バテならぬ仕事バテ解消を図る美味しいウナギを食べながら話を聞くことにした。三人の若手技術者たちが、成果に基づきリーダー(課長)に選任されようとしているのは、一面喜ばしいことのようでもあるが、彼らが気にしているのは課長としての管理業務が増えることで、今渦中で抱えてきた仕事が増大することと次代の若手を育てていくに必要な事業としての将来像が彼ら自身が描けて居ないことが原因であるらしい。疲弊した業界事情で、当面の売り上げ達成といった目的のみで利益確保もままならない仕事の仕方を家庭を捨ててまで埋没している状況で暮らしていることについては麻痺しきっているような様子だった。

携帯バブルの過程で見かけた風景と同様なシナリオが、このプロ用無線機業界にも規模の差こそあれ見受けられるようだ。技術提携ライセンスによる工場生産の確保、OEM製品提供をうけて商売の確保、最悪は業界からの撤退といったシナリオが、そうしたものになる。自身も組み込み開発を学んできたこうした業界のなかで、湯水のような携帯あるいはPHSの導入は、当初通信費用の運営費用の面からプロ用には普及しないだろうと見られてきた。プロ用の無線電話機が、データ通信サービス機能などを駆使してサービスを競ってきたのも、昨今の爆発的な携帯文化や多様な生活スタイルのお客様のケアにあって、プロ用通信機需要の下支えの中核となっていた物流業界の配達効率の最適化といった目的にはメール連絡・お客様との個別連絡・オンライン決済業務などの面から評価された。そうした結果、携帯に切り替えるということが選択されるようになったようだ。

タクシー無線などは、実際不況ということも相まって、タクシー需要を支えてきたお客様の利用がへり、そうした用途に特化した無線連絡配車といった為の無線機が売れないのはいたしかたないのだろう。タクシーを乗る都度、無線機の利用について運転手に聞くのだが、最近ではほとんど無線配車はないのだという。GPS地図を表示したり、位置を通知する仕組みを無線機と共に提供しても下支えとなっているお客様の需要全体が冷え込んでいる状況ではままならないのである。ロングと呼ばれる軍旗を越えるような金額の利用をすると、運転手からは自分の携帯電話番号が入った名刺をくれたりするのである。直接読んで欲しいというわけなのだ。こうなるとタクシー会社に所属しているという意味は、大分失われているようにも思われるのだが会社が要求する売り上げ達成をしていく上で会社が提供するインフラだけでは賄えないというのが実情らしい。

プロ用無線機のデジタル化ということにまとまって取り組めたのは、共用無線システムとして物流業界などの利用の多かったMCAシステムであり、さらに電力業界向けなどのシステムの開発がなされてきた。端末の数が多い防災無線機器のデジタル化などを個々に対応していくには、アナログのアプリケーションをデジタル化していく上での工夫やブレークスルーが必要らしい。システマティックにこうした業界の製品群をまとめていく為の中核技術としてデジタル無線を構成するチップセットや調整方法、アプリケーションを支えるソフトウェアといったものまでもトータルに捉えていくことが出来ないと単なるアナログからの乗り換えというような範疇で考えたシステム設計などをしていくと開発費用もリソースもいくらあっても足らないという、どこかで聞いたような話が再来してしまうのである。

無論、携帯バブルが社会全体に及ぼした影響自体は、ユーザーにとっては高度なアプリケーションの期待を同等なレベルで要求するようになるし、市場規模からみた端末開発費用に基づく製品価格などは使い捨てとも映る携帯電話のインセンティブ価格と相まって、ますます開発していく仲間からもモチベーション維持が難しいといった負のサイクルを廻してしまうような状況らしい。デジタル変復調により高度なシステムを構築していくということに求められる基礎技術としての萌芽を感じ取っている知己は、そうした状況下で思い切った開発としてコア技術の開発に邁進してきたようだ。経営トップへの直談判などを通じて、チャンスを得て推進してきた成果が試される時期の到来と、従前のままでは立ち行かない状況とがクロスオーバーするのは、あたかも不死鳥のような状況になっているのかもしれない。

過去を引きずらないという意味で、自由な開発を進められるかどうかには、最近はやりの社内起業といった方法で新規事業としてコア技術の提供を社内や社外に打って出ていくということが思い浮かぶ。放置すれば、破綻してしまう状況にあって事業継続していくという経営判断には、圧倒的な技術提供による淘汰という道の選択か、その逆でOEMを甘受するかといったことになるのだろう。誰もが開発投資続け得ないというデジタル無線機の業界をリーダーシップを持って技術や部品やソフトの提供などをもって進めていくという姿は、どこかQuad社のやり方に似ているようだ。ライセンス料をとりながらサポートを続けていくことで、さらに技術追求を進めていくという道もとれるのかも知れない。ただ異なるのは変復調技術・送受信技術を利用する多様なアプリケーションが異業種だったりすることで冷蔵庫やETCといった分野などとの協業であるのかもしれないことである。チャレンジングなテーマであることに疑いは無い。

リファレンスデザインのハードソフト提供とチップセットやサポート技術の提供といった仕組みを進めていく別会社の設立を提案するものの、知己たちの反応は現在の会社組織のままの改革にも軸足を残したいというのである。軸足を残したままの改革を達成できるかどうかには、多くの場合破綻や倒産といった契機を通じて果たせてきているのが他の業界での事例であるといえるので、スムーズな移行といった切り口で言えば大きな負担に却ってなるのではないかというのが私見ではある。昨今の高度なアプリケーション開発を携帯電話業界でみていると、開発費用の90%はアプリケーション開発の費用なのである。残りの位置づけとなっているCDMAやUMTSの技術提供を果たせたとしても開発効率を改善していくというスタンスは、きっと知己たちの業界でも必要なことであると考えている。彼らの目が輝きを失わない間に新たな事業として始まることを期待しているのだが。

組み込み展示会に続き行われた恒例のワイヤレス技術の展示会は、会場の規模が昨年より縮小されてしまった感を受けたのは業界の状態を映しての事だろう。入場者の数については、むしろ増えているということなのだが、狭い業界ゆえに知己たちのような知り合いが、戦いの場所を移しながら働いているようである。そうした挨拶や名刺交換を通じて改めて業界の狭さを感じるとともに、今後の業界の発展も衰退も自分たちの仕事の責任があるというのが実感である。あぐらをかいている暇はない、ソリューション提供者もユーザーもメーカーも精一杯頑張っていくことが必要なのである。三年かけてようやくキャリアも含めて方向と実績を示すことができた開発環境などもそうした成果の一つである。メーカーの方々やコンテンツ開発の方々に向けた教育などにも手がけていくことが求められてきている。知己たちの次の一手について報告を聞きたいと思っている。

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