業界独り言 VOL257 サンクスギビングのひととき

収穫祭として米国メンバーの殆どは、この休みに入ってしまっている。もう水曜から次の日曜までがサンクスギビングに始まる年末休暇シリーズの第一ステージの始まりだ。こんな時期に没頭できることは、リリースされた情報の事前調査やらといった仕事や求人に申し込んできたレジメの確認やらといったことになる。お客様自身も慣れたところでは、急ぐ内容については予め手を打たれていたり、あるいはこちらから解決を急ぐように連絡をしたりといった事前策も打ってはいる。日本のお客様の仕事のピークと中々マッチしないといった実情などもあるのだが、致し方ないところである。事前の根回しや対応をとるといった異文化の認識が大切である。

米国にあわせて休暇をとる仲間も多い、忙殺されてきた時間との調和をとる意味でもそうしたことは大切である。最近は運動不足も祟っているので、こうした機会を機に階段昇降を選択したり、一駅ウォークなどを心がけている。五分間ほどの階段の登りは、なかなかきつい運動でもある、オフィスに着く頃には汗ばみ息も切れてしまう。始めた当初は、自分の階まで行き着かず途中の階からエレベータにのり仲間にあって「どうしたの、こんなところから・・」と赤面する事態になったりもした。少なくとも階段を選択してしまうとある程度の階まで行き着かないと連絡するエレベータすらないのが実情なのでよい訓練ともいえる。

のんびりと着実に進めていくことをテーマに取り組んできた組込み作業であるところの個人としての無線機作成プロジェクトもようやく、無線機として所定の性能を出すことが確認できる段階にいたった。よく出来た設計は再現性も高く、調和の取れた端末といえるようだ。といっても私自身は、そうした面での経験はアマチュアなので後輩や先輩に教えを乞うのである。もう退職はされた先輩は、無線機作りの趣味とソフトウェア技術者の後輩育成といった使命とを併せ持つ方で、いろいろと意見を頂戴したりしている。道具も不十分な中で製作を進めたりする有り様の中で測定器や工具の準備も色々と教えていただきながら進めてきた。開発仕事と一緒で準備万端でスムーズにいくと言うことは実感だった。

まずは、プロフェッショナル用の工具として、周囲からは笑われたのだが温度コンローラ附きのハッコーの半田ごてが良かったと思う。価格は2万円弱だったと思うのだが設定した温度に対してクイックに反応してヒーターのコントロールが行われて綺麗な半田付けが達成できたとと感謝している。慣れぬ者こそこうした道具は利用していくことが大切である。これにより半田付けに伴うトラブルは皆無だったといえる。大規模なキット故に、部品の過不足や改版情報に伴う組み立てマニュアルなどの不備を確認していくことなども起こるのでサポート会社とのスムーズなやり取りもユーザーとして感じることができた。普段とは逆の立場であった。自分の体調も含めて無理な作業は誤りを生んでしまうのも事実であり、入念に部品を整理してマニュアルをよく読み疲れた場合にはそこで終えるといったことが大切である。

既に老眼の域に突入している目の状況からは、必要な道具として大きなスタンド付きのルーペが、有用であった。シルク印刷されている基板の上に指示された部品を探すのはあたかも「ウォーリーを探せ」といった状況なのである。幸いにして1005や0603といったチップ部品はないのが救いだったがそれでもカラーコードを確認したりトランジスタの型番を読み取るのにもルーペは必須であった。とくにカラーコードの読み取りで茶色と紫の区別が難しいと思った。老齢からくるものともいえるだろうし色相から近い色になっているからなのかもしれない。作成のために購入した道具にはDMMもあり抵抗レンジでの測定なども頻繁に利用して確認実装していった。トロイダルコアにエナメル線でコイルを作成していくのも初めての体験でお客様のアナログ屋さんの少し昔の体験を共有するような気になれた。

無線機を作成していく上で必要な道具には、周波数カウンターもある。秋葉原の著名なパーツ扱い屋の秋月などが扱っている周波数カウンターキットなどもあるのだが、最近は中国や韓国の測定器も取り扱っているようで周波数カウンターは、たまたま会社にも無かったので韓国製のものにした。無線機の組み立てに入ったのが今年の七月なので既に五ヶ月あまりを費やしている長期プロジェクトでもある。本来の試験電波発生までの期間を超しているような気もするのだが、幸いにして電波管理局からのお達しまでは届いていない。周波数カウンターにより、無線機に内蔵されている幾つかの発信機の校正をする必要があったのだが、少しハメを外してCDMA用の周波数標準ユニットなるものに手を出してしまった。

本業である仕事に関連しているかと思われた質問メールが学校の先輩から寄せられていたのが、きっかけである。何せ先輩自身がウロ覚えの情報だったようでジャンク品としての当該ユニットが秋葉原に出回ったらしいが最近は入手できないがなんとかならないかといった話だったかと思う。CDMAやGPSといったキーワードから、「これは小窓君に聞けばなんとかなる・・」と思われたのかどうかは知らないが。私が同様な情報を目にしていたのはCQ出版の雑誌広告の隙間に載っていた米国扱いの広告で249ドルでジャンク品が手に入るというものだった。何せ周波数校正に使う以外には、なにかの時刻標準にするといった目的以外にアマチュア向けではない代物なので恐らく大きそうな筐体を自宅に置くのはね思っていたのである。

先輩からの問い合わせメールと自身の無線機の周波数校正などの話から、このジャンク品を購入して利用の上で先輩にプレゼントしてしまうことで必要に応じて借りにもいけると言う一石三鳥といった展開になった。科学する好奇心をもつ若い技術者にとっては良い教材になるだろうし校正もままならない学校において正確な周波数標準が手に入ることには意味もあるはずだからだ。特に自身の税金対策としての寄付をねらったわけではない。ああ早くそんな身分になってみたいものだが・・・。米国から購入したこのユニットは本業であるCDMA基地局のリニューアルで米国のキャリアから放出されたもののようです。PC接続のソフトも付属してきたので所謂DB25コネクタ経由でRS422接続で繋がるというものでしたがNet散策で見つけた解決策は基板自体に設定ジャンパーが搭載されているようでした。いろいろな情報から設定が必要らしいです。まずは開けたりするためにトルクスドライバーセットが必要になりました。

のんびりとした中で工具や部品を求めて秋葉原にいったりするのは、まああるべき姿といえるでしょう。幸いにして昼休みくらいの時間や帰宅時間を早めれば神田までは最低運賃でいけるのが便利なところでもあります。トルクスドライバーやジャンパーポストを手に入れて422から232に変更するために表面実装の抵抗チップを半田付けで取り去りました。PC接続用に必要なコネクタ結線にするための冶具を作成したりといったことで、ようやく周波数標準を動作させるPCソフトウェアとユニットを接続して必要な経緯度情報をユニットに教えることで衛星同期に成功することが出来ました。この周波数標準ユニット自体は、もう通信装置の更新と一緒に廃棄処分されたものですが内蔵されていたマイコンなどは私には懐かしいモトローラの32ビットマイコンでした。

まあこんな脱線をしつつようやく購入した韓国製の周波数カウンターの精度確認をしたところ10MHz測定で4Hz高めということなので、まあ十分な精度の測定器だなという安心を得ることが出来ました。忙しいなかでの時間を割いてする仕事はゆるやかな時間を楽しむと言うのがアマチュアの良いところなので納得のいく仕事をしていくというスタイルを追求しているわけです。ある意味でQuad社の開発風景と似ているところも在るかもしれませんね。ユニットは早速先輩の先生に着払いで送付してしまいました。寄付なのか、押し付けなのかは人によって違うかもしれませんが、今回のものは先輩にとっては願ったり適ったりということのようなのでうまく情報をまわすことによって得られた成果ともいえます。好奇心と積極的な行動は大切なものです。

組み立てと調整をしつつ、受信機の調整にはやはりSSGも必要であるということが判明しました。とはいえ義弟に貸していた無線機をまずは戻してもらいダミーロードに接続することでアマチュアバンドの旧型の範囲については調整することが出来ました。無線機自体が20年近く前の機種なので後年拡大追加したバンドには対応できてないのです。無線機と一緒に手配したアンテナは垂直のダイポールだったのですが、近隣の住宅への影響も考えて少し価格は張るものの同調形の磁界ループアンテナというものにした。アンテナの同調をとるといった目的もありアンテナアナライザが有用であるということから、これを利用するとSSGの代わりにもなりそうだということに結論付けて受信系統の調整を完了させるまでに至った。無論、前の会社の先輩から大掛かりな測定器の貸し出しの申し出も受けてはいたのだがちょっと置く先を勘案してまだ、そこまでは至っていない。

アンテナの設置には、仮設置として物干し台に行っているのだが、最終的には屋根馬を設置して屋根の上に置く必要がありそうだ。組み立てるユニットにはアンテナチューナーもあり、これを利用してローバンドに出るためのワイヤー設置なども思案中である。電信ベースでの携帯型無線機なども出ているようなのでこうしたキットにも触手が動いている。なにせ米国との往復出張なども頻繁なので、海の向こうから小電力での電信運用などの楽しみも増えてきそうな状況である。メールやインターネットのご時世と逆行する趣味と映るのかもしれないのだが、好奇心追求していくという仲間とのコミュニケーションを図るといった目的にはとても適っている趣味なのだと思う。もしもしハイハイといった手合いはケータイに移行しているので本来のアマチュア無線の世界に是正されたのではないかと思っている。

私自身はアマチュア無線という切り口で、学生時代から好奇心を満たしてもらいつつ、エンジニアの道を志してきた。アマチュア無線機の設計こそはしないものの無線機器やシステムの設計をソフトウェアの観点から続けてきた。そして実現してきた自動車電話やケータイといったもののお蔭で最近の人たちには無線で通じると言う感動はなくなってしまったのかもしれない。しかし、ブラックボックス化せずに内容に向かって好奇心を抱きつづけることで新たな発見や創造が生まれてくるのだと思う。いま若い世代のエンジニアの人たちが好奇心を失いつつあるのではないかと感じているのだが、いかがなものだろうか。DSPの限界やアナログとしての限界、あるいは素子としての限界などに好奇心を持ちつつバランスの良い設計を目指していくというのも肩から少し力を抜いて自身の在り様を見直してみてはいかがだろうか。何か共通のテーマを見出して活動をしていくというのがインターネットの時代のエンジニアの姿のような気がしている。

作り上げようとしている無線機にもDSPユニットが搭載される予定であり、このユニットはオープンソースでリリースされるとのことである。時代は変わってきたなと思っている。キットでクリスタルフィルタ自体をラダー型と呼ばれる同一共振周波数の素子を沢山半田付けしてバリキャップで制御したりしている。ある意味でとってもオープンである。ブラックボックスがまったく無いわけではなく沢山搭載されている制御マイコン自体は公開はしていないようである。性能を確保しつつ自由にさせるといった考え方はQuad社のチップの考え方にも通じているようだ。Quad社も時代の要請に応えるべくアプリケーション用のDSPチップについてはオープンにするという考え方があるようだ。半田付けからDSPソフト、そして総合の無線機性能を身をもって体感できるという奥深い趣味なのだが、こんな気の長い趣味が嫌われるのは基本ソフトを重要視している余裕がない世の中の流れと同じなのかもしれない。

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