業界独り言 VOL300 次代の人たちへ

組み込み技術者にとっては、最近の携帯電話の機種開発という事は、全貌を捉えることは難しく、担当機能ブロックに閉じた形での接点しかなくなっているという状況でありシステムエンジニアとしての感性などを持つことはキャッチアップする術すらないということなのだろうか。即戦力という謳い文句で活動している教育現場や再教育を指向している会社での最前線などにおいて基本を抑えるという枠組みに、あまり時間が割けないということにもなるようだ。現在、ベンチャーのCEOなどの職にある知人達の世代が経験してきたリソース不足の時代で学んできたパフォーマンス追及などの工夫といったことを現代の状況で経験し教えていくことが難しいということのようだ。外部の環境として、マイコン草創期から長らく開発に携わってきたという得がたい実践を結果として体系的に経験していくということが出来たというのは、一握りの世代に限られてもいるようだ。

教育現場に立ち返り、教職の道をとるという選択をしている知己もいる。あるいは悠々自適の段階に入る中で、専門学校でクラスを持ち自身で経験してきた内容をベースにしてシステムを理解させる目的でリアルタイムシステムOSの開発を課題としてコースを起案実践されている人もいる。歴史の中を生きてきた人の経験と、教育で得る経験は違うのかも知れないけれど少なくとも経験して理解したことを教育を通して理解してもらいたいという思いは強いのである。先日、ベンチャー社長のYさんとお会いして食事をした際にも、苦労して性能を出すことに邁進したZ80の経験が大きなベースとなっていますというのである。実際の社会に出てから取り組む「お化け」のように肥大化した携帯電話のシステムに遭遇する前に、全貌が把握できる範囲のマイコンシステムを一人で全て構築してみるという事は有益なのだと思う。

世の中は技術進展により素晴らしいツールが揃い原理原則を理解せずとも、仕事が出来るようになっている。上述のZ80などのマイコン開発経験もシミュレータなどを用いて行なうことが出来るのだろう。だけれどもマイコンは是非自身で半田ごてやオシロスコープあるいはロジアナでも良いが裸一貫でデバッグする経験を是非積んでもらいたいものである。そうした環境までもシミュレーションできるようにすべきだという声もあるのかも知れないが・・・。マイコンのデバッグにポートに接続した一個のLEDでデバッグするようなことから初めて貰いたいものである。基本を理解した上で、効率改善の目的で開発されたツールを使うのは良いことなのだと思う。かつて他社マイコンのシミュレータをチームとして開発したことがあったのだが、目的は、時間を止められるチップと同じ動作をするマイコン環境の構築だった。そんなことが他社マイコンの公開されている資料だけで出来るものかという意見もあるだろうが・・・。

そこまで原理を理解しないままにツールを使い問題解決をしていく人たちが、ツール原理とシステム動作の狭間で稚拙な理解のままに問題解決が進まない状況に遭遇しているケースが多くあったからでもある。実際に動作しているシステムを止めることなど出来ないながらもマイコンデバッガーで恰もブレークを張っておき止めた所から再開していくといったことを実践しているシーンなどがそうした背景でもあった。高精度なシミュレータを開発する為に一年半近くもリソース投下して実践して一連の成果を生み出したのだが、果たしてそうしたツールが自社チップでもない物が対象だったことも含めて、プロジェクトへの思いや、その成果活用が図れているのかどうかは今となっては不明である。ある会社という枠組みの中で、そうした事への挑戦が必要と認められて何かしらのプロジェクトに貢献することが出来たのは確かだし、会社としての新規事業を起こすという事にまで繋げる必要も無かったのはチップセットを事業とするものではなかったことにも起因している。

アプリケーションとしてシステム設計開発を進めている流れが巨大化したバベルの塔の如き状況に直面する中で、自身でフレームワークを新規に構成することにまでリソースを割けるかどうかの判断は現在では皆無に近いようだ。プロジェクトを推進していく上で自前のプラットホーム開発をしている別チームの動きなども知りつつも現実的なスケジュールでの実現をするために使えそうな外部プラットホームを利用していることもままあることである。一度決めたプラットホーム戦略の変更は大きなイナーシャで動いている会社全体のプロジェクトに対して少なからずインパクトを与える。ある意味で切り替えて微細な改善を図ったりすることよりも変えずに失敗したとしても、それなりの経験を積めればよいと考えているのではないかと思っているのでは伺えるほどである。プラットホーム整備に各社が傾注しているように見受けられる昨今とは別に、溢れる開発要件を消化する目的で社外のプラットホームに長けているODMベンダーを活用するというのも一つの傾向にある。

次代を担う若い技術者たちには、是非組み込み業界の実情を捉えていただいた上でブリッジエンジニアに終わることなく原理原則を押えた上で深い専門を持つ志向を持っていただきたいものである。とかく昨今のエンジニアをとりまく環境は消耗品としてエンジニアを捉えているのではと思えるほど余裕がなく、今や人材育成の旗頭を掲げているメーカーなどはことのほかないものである。国策として掲げているエンジニア拡充という施策の中に、国外のリソース活用などを主眼としている現状の仕事としての枠組みとなってきたブリッジエンジニアという事の起草自体が国策と矛盾しているように私自身は感じるのである。現場から乖離したままに、実際の開発を知らぬブリッジエンジニアが跋扈している状況で製造力設計力を向上していくという仕事になるとは思えないのである。状況の矛盾に気づきつつも製品開発を余儀なくされるメーカーにとっては弥勒信仰に陥ってしまったり、効率改善の流れで追求すると自社リソースの削減という矛盾に落ち込み悩んでいるのも国内メーカーの実情である。

コアな技術に注力しているという自負を自身を世の中に問うて考えられる技術者やベンチャーならば、その人あるいはその会社の価値を会社や業界が認めている故に仕事の心配などどこ吹く風だろう。そこに疑問が生じた時にとるアクションは自己開発であり、新機軸の事業創造となるのだろう。外資の会社ではドライに切り捨ててコスト効果最大の答えを選択するというのが世の常であり、国内メーカーでは、いまだ達し得ない部分がそこには厳然として存在する。それゆえに自己矛盾が解消できないというものでもある。革新的な技術提供により、ビジネススタイルを刷新できればリージョナルに解決すべき課題や強みが見えてもくるものでもあると信じている。そうした事に気が付くのかどうか常に自分自身あるいは自社ビジネスの弱みを認識していることが最大のポイントになる。エンジニアという自分自身を活躍させるかどうか、ベンチャーとしての自社を躍進させるかどうかは常に主体としての自分やCEOなどの意識にかかっている。

残念ながら、日本という市場で仕事をしているエンジニアにとっての足枷は常に付いて回る状況である。世界的に見ても突出した最先端の機能を要求されるのはキャリア相互の競争が熾烈になっているからだろう。一極集中したキャリアの状況がある意味で革新を生み出すことになったのは、運命だったのだろうし、各メーカーが試行錯誤を繰り返しつつデータ主体の通信へと拡大してきた経緯でありアプリケーションが整備されてきた。これも交通インフラが整備されている状況が有効となり、ちょっとした暇つぶしや電車などの通勤通学などの時間までも開拓することに成功したわけである。他方残念ながら日本という国情から物価が高い中で暮らさざるを得ない状況で、生産性の低い取り組みをする限りにおいてはソフトウェアビジネスという事業がコストダウンの観点からも将来が危ぶまれているわけである。そうした事を是として将来はブリッジエンジニアしか存しないと規定したわけでもないのだろうと理解したい。

いま、世界が漸く日本と同じような土壌に立ちプラットホームの整備がかない始める状況になると、公正な競争に勝ち抜いていくための独創的な技術が求められるのは日本のコスト高の国情ならではとなる。組み込みの仕事をしたいのでインドや中国に行かざるを得ないと結ぶのは余りにも悲しいのである。日本で同じ仕事をする限り魅力的な仕事に映るはずも無いのである。ドカタ商売で物づくりが出来なくなって久しいとはいえ、インテグレーションのノウハウを各メーカーが負担することすら覚束なくなっているのも事実である。中継ぎの技術としてレディメードのプラットホームを利用してある程度仕上げた後は、自前のプラットホームに移行するという美しいプランを掲げるメーカーもあるだろう。各メーカーの戦略がミートするかしないは数年立たないとわからないものの、投資がなされてモチベーション高い仕事に取り組むことが出来ている人たちは幸せな状況といえる。世の中の動きを理解しつつ、状況が暗転した場合においても自力を蓄積することには活用できるように努力していく意識は大切である。

野望を持てとまでは言わないものの、自分の夢を描けることが必要なのだと思う。人により人生観も異なるだろうから、単なる職業としてのみ技術屋をしているというのであれば、モチベーションを高く持つこともなく失敗しても後腐れなく次のテーマに入っていけるのだという人の生き方も一つの道かもしれない。ただ日本に求められる技術者の仕事がより創造的な仕事を求められるようになってきていることを理解すべきだと思うのである。今までの延長線で済むというようなドカタ仕事などは無いのである。自分の夢の過程として現在の仕事をマッピング出来る様に考えられるかどうかで、仕事へのモチベーションは大きく変わり成果も変わってくるはずだ。自立したエンジニアに向けて、成長していけるエンジニアとは好奇心旺盛な若い状況で、恵まれた上司のもとで仕事の指針を正しく与えられて進めることが出来るかどうかにかかっていると感じている。成果としての成功失敗に関わらず、そうした中から何を学び次に対しての戦略を考えていけるのかどうかそんなまとめ方をしてくれる上司であるべきだ。

 

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