業界独り言 VOL314 組み込みソフトは何処に向かうのか

時代の流れからなのか、日経バイトが休刊となるのだそうだ。日経といえばさんざん購読予約の延長などのお願いばかりが目に付いていたのが、最近になり毎号単位で通常の書店での雑誌販売の形態もとるようになっていた。日経エレクトロニクスのカテゴリーとは離れて、マイコンに携わるカテゴリーのエンジニアの技術真髄を語るという目的で、米国のDDJなどと並ぶBYTEマガジンとの提携で始まったものである。実は母体でもあるBYTEマガジンは単なる初期のパソコン雑誌というだけでは無く、業界の中心人物たちの研究の発表の場としての色彩も持ち合わせていた。そんなBYTE誌の終了以降も日経バイトの存続は続いてきた。日経バイトの編集方針もいろいろと工夫を重ねてきたのだろう、組み込みソフトウェア業界も含めた技術交差点といった趣の発表の場であったりもしていたのだとおもう。そんな取り組みも含めて、突然の休刊のアナウンスには残念と思うのと共に現状の流れの中で納得するような雰囲気を知己たちのメーカーなどからも感じている。かつてのマイコン登場の頃の勢いは、プロセッサ誌の登場や、その終焉なども含めて時代は移り変わってきている。

組み込みソフトウェアの旗手たる挑戦的なエンジニアたちの活躍の場所はいったいどこになってしまうのだろうか。米国では、まだ組み込みソフトウェア業界に向けた雑誌が続いており、その意味では健全のようにも映るのだが国内でのバイト誌の休刊には考えさせられてしまう。中国のソフト技術者たちののあくなき追求の熱いスタンスを見ているものとしても、国内のソフト技術者たちの戸惑いには日本の枠組みの中で進めてきた開発の流れの変革が迫られているようだ。挑戦したいものの活躍の場所が中々与えられる状況になっていかないということには、成熟し始めた状況の中では致し方ないことなのだろうか。ようやく携帯がPCのような環境になってきたという見方は、早合点なのかもしれないけれど実際にプラットホーム共有を行うメーカー間での端末完成度の競争などが見えたりしている。同一のプラットホームを利用していても異なった端末の実現やオリジナリティを実現できるのはQuad社のカスタマーなどがもとより実践してきたことでもある。数年来UMTS開発をしている知己のOEMメーカーからフルセットのソフトウェアの提供を要求されたりもしてきた背景もある。

組み込みソフトウェアという分野をOEMメーカーの視点から共有できるのかという点については、知己たちと続けてきたオフ会などのワークからも難しいらしいことは感じ取れていた。Quad社の技術伝道者として各OEMメーカーの技術トップの方たちにプレゼンテーションをしたりすることを通じても国内キャリアから提示される仕様のトラッキングに疲弊している様子が窺い知れた。新たな挑戦をする余裕があるのかどうかというファイナンシャルから見た点と共に、開発リソースとしてのアロケーションが可能なのかどうかという現実面がある。しかし、また新たな通信キャリアの登場の中で対応してビジネス拡大をしたいというメーカーの思いは前述の苦境とは裏腹でもある。通信キャリアの戦国時代とも言えるMNPの時代に突入する中で端末メーカーとしての対応力が問われてもおり、端末メーカー自身も今後の通信キャリアの行く末を見据えながら出来る対応について吟味をしている。いくら投資をして端末が出来上がり、その上でその端末についてユーザーにとって魅力のあるものが出せるのかどうかが鍵である。通信キャリアの仕様に応えることだけで一杯いっぱいになってしまったのでは仕方の無い状況である。

豪華なUIを見せたら、ユーザーに訴求力があるのだろうか?秋葉原を神殿と崇め立てるような人たちも確かに存在していてゲームマシンの如き端末のUIを良しとするかも知れない。全ての端末に同様なUIを共用することでサポートの観点や通信キャリアとしてのポリシーを通してきた歴史もある。新たな通信キャリアは、そんな仕様すら提示せずに各端末メーカーからのプロポーザルを待ち受けてasisで何がそのメーカーとして出来るのかということでコストの安い端末を入手しようともしている。プロポーザルを書いたメーカーが新たにその仕様のUIを開発するなどとは考えも居ないわけである。逆に、現在の通信キャリアの仕様から独立して自社UIの範疇での端末作りを追求蓄積してきたメーカーがこれからの活躍が期待できる部分でもあるのだろう。端末作りを起案して実際の開発には中国や台湾のデザインハウスを使い、製造にはEMS企業を用いるといった新たなスタイルのビジネスモデルも登場してきている。フルセット仕様の端末ベース技術の提供などをQuad社が果たしているとすれば、そうした技術を受けてのビジネスが離陸するような時期となるのだろう。迎え撃つ国内メーカーの気運はいかがなものだろうか。

開発コストと製造コストのバランスが自社技術に特化することで崩れてはいないのかどうか技術者としての認識を確認してもらいたいものである。それゆえにトップメーカーと組んでデザインを流用するのだというトップ方針が打ち出される会社もあるだろう。デザインを受け入れるということは、そのデザイン提供者に対して自身が考える問題を提示してフィードバックとしての希望を述べた上で使い込んでいくものである。その開発コストを削減することが目的なのであり、自身のポリシーを反映させて自らの使いたいように改造してしまうことではない。そうした受け入れる部分と共に自身が作りこんで乗せていく部分を分けて考えていくことで製品の連続性も含めて効率よくビジネスが回せるようになっていくのである。とかく細かいことが気になって仕方が無いという向きの人たちに対してソフトウェアをソースコードで提供したとしても、直す主体は開発元に担わせるべきで自社のノウハウだといって抱え込んでしまった瞬間から将来に対しての自分自身が作りこむ重い十字架となってしまう。開発元が改版していくソフトウェアの進化の中に取り込まれないノウハウなど足かせ以外の何者でもない。

そういった意味においてもリファレンスソフトウェアという名前のある意味不完全なパッケージとして提供していた時代の名残から、脱却してアズイズで使えるソフトウェアというフルパッケージ゜を開発するという流れに到達してきたのは大きな時代の転換点ともいえる。自身がワイヤレス業界に深く飛び込んだ時代の流れは、入社面接で面接担当のバイスプレジデントに提案した予見する未来像にどんどん近づいている。それは自身がメーカーの中でなしえなかった動きでありビジネスモデルとして曲がりなりにもレファレンスデザインを提供するビジネスをうまく回すことが出来た類まれなる状況の賜物でもある。技術投機的な進め方をビジネスの実務にマッピングしながら達成してきたこのQuad社を影で支えてきた大きな恩義を生み出したお客様の技術トップと会う機会があり、深い感謝を申し上げることが出来た。実は、そうしたチャンスに巡り会い、その仕事を通じてQuad社の現在のビジネススタイルがそれを支えるべく進化を遂げてくることになった。恩義あるお客様のビジネス成果が十分なものになったかといえば、それを語るにはまだ時期尚早といえる。組み込みソフトの経験を駆使することで、そうしたビジネスサイクルを少しでも回すことに参加できたのは幸せであり、その成果として新たな時代を迎えたともいえる。

気風の良い、会社風土がふれあい互いに感化されてきた経緯は、会社としてのビジネスモデルの成長サイクルに適合してきた。そんなビジネスモデルがさらに成長を遂げて幅広くなっていく大きな成長の痛みが、今またQuad社の中に起こっている。成長期に自分自身で感じた関節の痛みにも似たそれは、自身に何が起こっているのかを認識することで対応が出来るものであり今までの経験からのみ判断していると大きな間違いの元にもなるのである。適材適所で組織を変貌させて新たな挑戦を続けていくというのが必要なことである。Quad社が成長してきた流れの中でお世話になったお客様にさらに貢献していく為にも、フルレファレンスとなる端末一式の開発提供という目標に向けて未来を設定しようとしている。日本の市場が常にリードしているのは、そうした変容する流れの中でも必ず光る商品を生み出している力強さがあるからだろう。そんなDNAを持っているエンジニアーに、より高い挑戦の場所と機会を提供していけるのもQuad社の強みであり魅力でもあろう。昨今の端末メーカーでの開発の有り方に技術者として飽き足らない不満を感じているエンジニアのDNAを刺激させることが出来ればと願っている。

最後の日経バイトに何が特集されるのかは、私自身も楽しみである。人間追い詰められると凄い成果を出すものであり、中身の濃い記事や提言が書き連ねられるに相違ないと期待しているのでもある。技術屋としての思いやトレンドを含めた自身の考える未来の技術への期待などを共有する媒体が無くなるとは思えないのだが、ひとつの時代が終わろうとしているのかも知れない。会社の枠を越えたエンジニアの繋がりが展開できる場所が何か生み出される予兆なのかも知れない。オープンなマインドで取り組んでいける、そんな組み込みソフトウェア開発に向けて舵取りをしつつビジネス成果を端末メーカーに享受できるようにしていきたいと考えるのである。このメッセージに気がついた人にはわかるインディケーションは、既に与えているつもりなので、いまは共鳴してくれる人からのハートビートを伝えてもらいたいと思っているのである。今年の夏に思いを感じとった人たちに対して発したインディケーションは、最近ようやく次のステップに繋がることが出来た。共鳴していただける人が増えてくれることで、より確度の高い未来を実現していくことが出来るようになるのだ確信している。

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