VOL37 仲間の広がり 2000/08/30発行

携帯端末開発の最前線に飛び込んで一年が経過した。いままで少し距離をおいてみていた仕事に首を突っ込むようになり、また外部から元の会社を見直すことが出来るなどの経験をしてきた。実際問題として退職理由でもあった高速無線データ伝送技術による業務無線改革に向けての第一歩ともいえる事がまず第一の難関でもあった。
 
初芝は、取り組みが早く撤退も速い会社である。長続きした開発はうまくいくはずだが、そこまでずるずるとしたやり方を好まない。最近は、そうした博打的な開発(昔は基礎研究とよんでいた?)をインキュベータと称してベンチャー育成に矛先をかえている。基礎研究するよりも、懸命に成果をだそうとするベンチャーが新鮮に映るのだろう。
 
社内での開発で必要な技術を紹介する伝導師(エバンジェリスト)や、必要なニーズを嗅ぎ取ってくる技術営業のような機能が機能していれば社内の種種の研究所での開発でも成果が出されてくるはずである。初芝の海外インキュベータ戦略は雑誌に紹介されるほど高名になってきた。しかし、裏返すと基礎研究には自信が持てないあるいは問題があるということではないだろうか。
 
初芝通信においてもインキュベータでも基礎研究とも違うある一本の技術方向をもった研究者集団の育成という名目で地方研究所を関係会社として設立してきた。求心力のある先輩をこうした研究所に出向させて所長をお願いして初芝以外の会社で優秀な技術者でユーターンしたい人たちを対象として人を募り拡大させてきた。現在、三箇所の会社が出来ている。
 
こうした各研究所は、どうように初芝電産にも存在していくつかの研究所という会社がある。本社のコントロールがあまりかからないインキュベータのような仕組みでこうした会社が研究所として機能してくればよいはずなのだが、いかがなものだろうか。元の職場の仲間と夏にはつき物の鰻を囲んだ。いくつか話しをする中で無線をテーマの中心とする地方研究所がスピンアウトの巣に変貌しているらしい。彼も優秀だと欲する技術者が辞めて品川の会社に転職したらしい。
 
品川の会社の開発体制のひどさは今に始まったことではないので意識あるものは、一プロジェクトで辞めてしまうのも不思議ではないらしいし、今回転職した技術者もそうであるらしい。事業部で一緒に仕事をしていた友人は、品川の会社の技術者を再度事業部の人間として呼び戻せないのかどうかを人事に相談をもちかけたらしい。しかし、意外なことに初芝の人事では、系列の会社を退職した人間は採用できないという不文律があるらしい。
 
よい仕組みとして地方研究所創設のころは優秀な人材も集まり機能しているように考えていたが求心力のある技術者が、その研究所という会社のポリシーを持ち、親会社からの要望との合戦をしつつ仕事をしていくというような姿が見られないと単なる下請けになってしまい折角研究所という名前の会社に就職したメンバーのモチベーションは下がるだけなのではないだろうか。そうした結果が流出する人材に繋がっている。
 
こうした地方研究所という別会社は、親会社の状況の縮図として見えていると認識すべきで多くのクライアントとして請け負っている初芝の事業部サイドに問題があり、地方研究所のトップは、それをブロックしてくれるべきなのに出向という姿から迎合してしまうのではモチベーションの維持は出来ない。これは事業部でも同じ事で技術者として追求していきたい熱いスピリットが維持できないということにほかならない。
 
人事問題かも知れないが、品川の会社を見習って、玉石混合・くるもの拒まずとして、出るもの遺留せずという姿になってしまうまえに事業部としての文化醸成を計るようなことを意識の中に植え付ける努力をしてみるべきではないのだろうか。私は、不幸な仲間の技術を無駄にしたくないので初芝通信からやめて品川の会社に移った優秀な人材をQuad社に呼び寄せて業界全体へのフィードバックをかけるような取り組みを試行している。
 
一年が経過して、初芝がようやくQuad社のチップを採用してくれた。次世代業務無線の夢に一つ望みが繋がった。今日はそんなうれしい自分自身への気持ちを友人と鰻をつついて祝っていた。

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