業界独り言 VOL138 K君からの葉書

いつも綺麗な葉書を呉れるK君という後輩がいる。年も明けて気がつくと賀状が来ていなかった。イラストの得意なK君であり来ていれば気がついていたはずだったのだがと年賀状の整理をしたのだが、やはり来ていないようだった。同様に毎年、明るい感じの性格のままな年賀状を戴いている先輩からは年賀状が届いていた。いつも直ぐに住所を見ないでも選択したデザインの印象から、その先輩だとわかるのだ。文面には、割とショッキングな一文が書かれていた。

先輩からの年賀状には、「新年から技術部から購買部へ異動となります」と書いてあった。永年の先輩を知るものとしてハードウェアシステム設計において多年に亘る基本部品の選定や先進技術の導入など確かな眼を持ちシステム件名などの長寿な商品設計を行ってきたのである。こうした電機業界の常として昨今の最新動向の無線通信システム開発に携わってきたのであるらしいが、もう開発を終えて量産体制に移行していく時期に入ることから主体が変ってきたのかもしれない。経験を買われての人事異動とお見受けした。

そんな先輩と新年会も兼ねて食事をしたのだが、いつも綺麗なカードを呉れるK君が気にかかり近くなので誘ったところ後半合流してくれた。週末は雪深い実家に帰っていたことも手伝い賀状の送付が年越しになってしまったというのが実情だった。心配はいらないかと思うと何だか会社のトップに直訴を申し込んでいるというただならぬ話だった。かつて無線業界の会社に気の短い技術屋がいたのを思い出し、同じ轍を踏むなと釘をさした。しかし、会社トップとの話し合いにまで持ち込めたのならば新しい歴史が始まる可能性もある。

最近の通信機業界では再編の嵐が渦巻いていて仕事としては相変わらず不透明な仕事が中心にいたりといろいろなのである。自己の居る環境を問題とは捉えずに課題として捉えて解決まで仕事を続けるという方針にしたがって大行進を続けている会社もあれば、製品開発は順調なのに通信キャリアの整備が間に合わず最終ユーザーへの納品日程が遅れて手配した部品の支払いなどが問題となってキャッシュフローがおかしくなっている事例もある。どちらも大事な御客様なのである。独自開発の為に費用を数十億円投入して成果がないままだ・・・と問われている会社もあるようだ。

一つの会社として何か利益の柱にある製品があり狂信的な開発を続けてきた会社の例としてはQUAD社もそうであっただろう。CDMAの技術開発を狂信的に続けてきて今日があるのだ。無論日常の開発投資を続けられるビジネスとの並存があってのことである。うまくいっている時にこそ開発内容の精査が問われるのはそうしたことである。看板商品がうまくいかなくなったときには開発投資の成果がそれに充当されるからに他ならない。ベンチャー魂はそこにある。

先のK君の開発などは、彼の会社のベンチャー魂の萌芽でもある。まだまだ会社として元気のある将来性がそうした人材に現れている。限られた開発リソースの中で透徹した技術的見通しを立ててお客様に向けた製品群システム群まで念頭において、限られた経営資源の中から僅かな開発費を捻出して地道な開発を続けているさしずめ青色発光ダイオードを開発した中村さんの伝記を聞いているような感触だった。小規模ながらLSIのシステム開発が出来るこうした人材が見ている未来は世の中の動向とは異なっている。こうした有用な人材を活かせるのかどうかは確かにトップの問題だ。

チップビジネスから技術ライセンスを受けて物作りをしている御客様にあっても各々の開発プロセスの差異により効率は10倍以上も異なる。順調に開発を進めているかと思いきや最終コーナーで転んだところでトラブル内容を聞くと製品としての無線システム設計が理解できていないことによる問題だったりもしてがっかりもする。間際の問題で解決できて善しとするのか、もっと早期に正せなかっただろうかと反省したりもする。御客様毎の理解力や経験を考慮に入れた奥深いサポートを達成するには、まだまだ修行が足らないと反省するのである。

おなじ部品と技術資料とソース提供と開発支援サービスを受けていてもやはり、御客様の地力が無ければ理解も活用も出来ないのであろうか。ある現象が発端となり、この御客様の無線設計能力について知らされて驚きもし、先のK君のようにシステム設計が出来た上でIC開発やソフトウェア開発が進められつつもトップ理解が得られずに苦しんでいる姿の対比は現在の電機業界の縮図なのかもしれない。ある意味、どこの会社にも中村さんやKさんがいて青色ダイオードなどの新たな未来が隠されている。

QUAD社では地力を培う時代を経て、ある意味で現在のチップビジネスが始まっている。ソースコードには地力開発の歴史が残されている。最初のチップを起したときに使えたのは、CMOSの80186だったことが不幸なのか幸いなのかは不明だが・・・。しかし地力開発にとっては、よい課題だったのだろう。この課題をクリアすることでARM7の時代になっても地力が引き継がれてきたのである。世の中の眼鏡や物差しでは計れない尺度が、今は初めて選択しようとする御客様の目には異質に映るようだ。

ARM7では作れないと言われているワイドな仕組みも開発が最も順調に進んでいると評価されるのは、ある意味で地力が対極といわれる通信技術においても評価されはじめたというのが実情なのかもしれない。GSMやワイドな仕組みを共用するチップやソフトの開発というテーマはある意味でバベルの塔と言われているような状況ではあるが、ロードマップに書かれていたスケジュール通りに出てきそうな様子である。ロードマップ自体は書かれた時には世の中の流れから遅れすぎると揶揄されていたものなのだが・・・気がつくと一人旅になっているのかもしれない。

先の会社と同様に順調な時にこそ新たな次の開発の種を仕込む時期であり、そうした第一段として出てきたHDRなどのように自己否定をしながら先を見るという余裕を残すべきであろう。生産拠点が日本から離れつつある中で携帯などの事業もPCのマザーボードなどのように変遷していくことが予想もされる。メーカーとしての地力を育てて、やっつけ仕事などの風潮とは決別しない限り会社や業界としての未来は無いのかもしれない。日本の業界に未来が無いというのであれば自分の居る場所も無いわけで出来る限りの手伝いをしようというのが私の自身へのフィードバックループでもある。自己変革の維持は会社の次代への活力の源泉となるのだと思う。

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