業界独り言 VOL308 気がつけば仲間が

「月一連載ですか?」と仲間にチャカされた。確かに月一になってしまうこともままあるのだが、一ヶ月以上あけると心配メールやら飲み会しましょうメールやらが届き始めるのである。どうも私の独り言は、そうした人たちのガス抜きになっているようで、月一以上に間をあけると耐え切れなくなってしまう人がいるらしい。Quadジャパンという組織にジョイントしてはや六年余りとなりいまや80名を超える組織となってきた。当初のこじんまりしたビルでは収まりがつかないくらいの仕事を抱えている状況を見れば必然といえるのだろう。なかよくCDMA陣営のことだけしている時代は終わりを告げて3G開発を掲げる全てのキャリアやお客様にソリューションを提供することになっている。昔では考えられなかったような状況で、近在の三つのキャリアやそれ以外のキャリア候補生などにも顔をだすようになっている。一つの御題が出来てコンセプトが固まると、そのテーマを一様に説明に出向き噛んで含んで説明するのが最近の忙しさの主因でもある。伝道者という言い方が正しいかも知れない、またお客様のフィードバックを感度よく拾い出すというミッションでもある。

いろいろなメーカーや経験を持つ仲間たちで構成されるQUADジャパンの組織にひときわ、熱き想いを語る仲間として前職場での卒業生がいる。いまではその数は会社の構成の二割に達する勢いを見せている。IEEEのフェローの称号を冠する大先輩がいたり、気がつけば知己が社長を務めている現在は六年前からの計画通りであり、昨年暮れに北京で久しぶりに再会した先輩もまた加わることになった。大きな流れを感じたり不思議に思い返したりしながらまだ転職前のコンサルタントとして中国に訪問していた、その先輩と食事を北京で共にしたりしていた。その時の夕食のメンバーはといえばソフトウェア業界の重鎮ともいえる開発会社の気鋭のリーダーや計測器メーカーの方たちだったりもする。3G市場を活性化させんとする同士達の集いだったりもする。先輩自身も長らく欧米での開発拠点を率いて現地開発拠点としての取りまとめを推進してきたものの3Gに推移して以来の開発の重圧をこなしていく流れの中で現地と本国である日本との間の乖離に苦労を重ねてきた経験があった。そういった乖離の理由の一つに現地で起こっている事情や今までの開発スタイルが3G移行に伴いミスマッチしてきたことが挙げられるのだろう。

結局、開発計画の矛先が二転三転する中でなかなか着陸することに繋がる前に開発が中断するということが多発してしまうのは、過去のその会社としての成功経験が尾を引いているからだろうか。現地に任しきれずに開発計画を次々と変えていくことを続けて業界一開発プラットホームの多さを記録したりしていた。長く一つのことを続けていくということを達成できないのには何か別の本質的なDNAが欠けているからなのかも知れない。新たなことにアグレッシブに取り組んでいくということと完成にまで漕ぎ着けるために頑張っていくということの両輪を回していくことがなかなか出来ない事情がある。また開発がスムーズに達成したとして、その商品がヒットするのかどうかは別の課題でもある。苦労をして開発を続けてきた技術者のチームにとって経営方針の篩いにかけられて方針変更での中退などを余儀なくされることでモチベーションの維持が出来なくなってしまうのは残念なことでもある。国内市場にのみ頼っての商品化しか出来ないのであれば、海外市場についての体制維持が覚束なくなるのはいたし方ないことでもある。3G開発という業界を飲み込んでしまった開発のバブルの後始末に突入しはじめる状況になった業界としては、未だ慣性モーメントとして旧来のビジネススタイルで開発費用の拠出を通信キャリアからの提供を受ける形での寄生生活が染み付いてしまっている。

ワンチップ大関などと称される端末の登場で、中堅端末が出来上がりを見せる中で、対抗策として複合企業体としてチップセットからソフトウェアまでを開発しようという国策プロジェクトの如き取り組みを通信キャリアが行ったりしている。通信キャリアが考えるところの開発費用削減のためにプラットホームを整備して、開発コストを削減してというシナリオに乗っ取って投資対象として開発費用の扶助が行われているわけであるが俄かにシステムワンチップで横綱を目指して作り上げられようとしている。この取り組みにはチップ開発・システム設計・端末開発といった三位一体の流れに到達しないままに続いてきている。そうして開発出来た環境をシュリンクダウンしてボリュームを増やすことで低価格を達成しようというのがストーリーなのだが、落としどころを抑えたプロジェクトリーダー不在の中で盲目的に高機能OSを搭載したりすることのみに腐心してきた流れには違和感しかない。世の中に流れる風潮を制御しようという国策までも感じられるのだが、制御する矛先が正しいと皆が信じているのだとすればおかしなものだと感じもする。

コストダウンという意味で言えば、ソフトウェアの開発コストを下げるためにソフトウェア開発の母体を中国・インド・韓国といった優秀で低コストなリソースを利用した開発の流れがおきつつあり、そうした流れの中で日本企業としての海外事業向け端末開発というビジネスの進め方が曲がり角に来たのはいたし方ないことなのだろう。ソフトウェア開発というパラダイムに立ち返ってソフトウェアの構造の改革までもメスを入れていくといった本来の日本企業が続けてきた基礎研究という投資がないままに、旧来通りの生産の流れの中でのソフトウェア開発に浪費した費用処理を技術投資とは言わないはずなのだが。出来上がったソフトウェアの再利用を実現するためにもプラットホームとして適用した高機能OSを動作させなければならないという理論が展開されていく。高機能OSの流れで御することが出来ない難しさに直面して余計なリソースを投入して制御を実現していくマルチタスクという自由な環境の中で無造作に複数の機能を動かすのではなくあえて型にはめた動きにしていくために腐心するのはおかしなものである。システムエンジニアが不在なままに設計されていくシステムのように見えて仕方がない。効率よくスマートに動作させるという設計の本質を忘れたままでOSを議論したりしていくのは間違っていると思う。

何をQuad社が叫ぼうとも、国内の3G端末開発の流れとしてのUMTS機器の開発では軍拡の流れを止める術も無く精鋭部隊が次々と送り込まれ飲み込まれていく。残された人材やメーカーがQuad社のソリューションを利用した物づくりにチャレンジしている訳だが、二軍あるいは新人といった雰囲気の流れの中で遭遇する珍妙な事件に日々直面するのがアプリケーションエンジニアの日常ともなっている。こんな状況でも作り上げられるが故にQuad社が評価されるのかもしれないのだが、商品としてのゴールを目指しているメーカーのトップの方からの視点での開発効率からみれば、リスクヘッジとして実践しているQuad社の利用方法も何か間違った使われ方をしているようにも映る。高機能OSを駆使して標準化を推進されてきたトップの方からの呼び出しを受けてシンプルなアプリケーション実装としてのQuad社の環境を説明したりするのは恐縮なのだが、そうした方々が期待している理想の姿として捉えているものが必ずしも高機能OSによって果たされているとは言いがたい状況も透けてみえていたりする。こちらのシンプルな実装で達成出来ていることと、これから改善していこうと考えている点についてロードマップやストーリーは少なくともトップの方の脳裏に強く残り、現状への疑問を抱えてしまったように見えた。

仕事のモチベーションを高めたまま追及していきたいという本来の技術者としての有り様からいえば、Quad社の環境や状況は、極めて健康的であり魅力的だと思う。ただ3Gバブルを経てきた現在の携帯業界の中核技術者には疲弊して麻痺した流れでもはや自らを叱咤して打ち込んでいくといった元気がないらしい。元気がないのは技術者だけではなくてキャッシュフローやら開発効率などの観点から端末開発事業自身の将来を見据えて海外事業からの撤退などを視野に入れて縮小を始めたメーカーもあるし、メーカーに続けてきた開発費用の扶助を打ち切るという宣言を始めた通信キャリアも出てきた。もとより扶助していない、ある意味で健康なキャリアもいるのだが・・・。世の中が健康な状況に向かおうとしている状況になりつつある中で病的な状況であるという自覚症状を持たないままに大企業病に罹患している患者になってしまった技術者たちが不憫である。そんな状況の中でQuad社に集い始めた志士たちは、前職で果たせなかった思いを健康的に精力的に実現していこうというのが集う理由にもなってきている。前向きに生きていく挑戦していくという技術者としての生き様を続けたいという健全な日常を取り戻してはつらつと忙しく仕事をすることは楽しい限りでもある。

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