業界独り言 VOL285 明るい日差しの中で

まぶしいばかりの日差しの中で、サンディエゴの港に面したホテルの庭でのランチを摂っている。年度末の会議・研修でのランチの風景であり、各国のセールス・サポート・マーケティングが一同に会する重要なイベントである。世界各地から呼び寄せられた100名以上のメンバーの渡航費用もともかくイベントしてホテルの会議室を四日間も借り切るという費用なども考えると大変な金額となるのだろう。普段は、電話会議や電子メールでやりとりしつつ機能しているビジネスもフェイストゥフェイスで関連者を集めるというスタイルで実施することの意義は大きい。こんな費用を掛けられる会社のビジネスモデルは、どこか普通とは違うのかも知れないが、実際問題としてチップセットの売り上げ・利益をアジアから大きく享受している事実は確かなものであり、そうしたメンバーを呼び寄せるのは一面当然かも知れない。

世界中の嫌われ者といった雰囲気だったQuad社を取り巻く環境も変わりつつある、提唱するライセンスビジネスモデルが認知されてきたというべきなのか。バベルの塔を推進していると思しき、国内トップの通信事業者との協業がアナウンスされてしまった現在としては、挙国一致といった雰囲気などが掻き消えてしまった現実を映し出している。そうした流れに戸惑っているのはQuad社自身にもあるのだろう、3G推進という切り口で第三号選択までも口にした後に、遭遇したこの奇妙なる展開を予測できていた人も少ないだろう。アンバランスを生み出したのは、五年前の手打ち以来ということになるのだろうが、最先端の中でのドラマティックな様々な展開で歴史を刻んでもきた。蓄積した知財によるライセンス費用などを技術投資に回しつつ展開してきた流れは、一面シアトルのコンピュータメーカーと同様に見られてしまうのかもしれない。

萎縮する国内キャリア向けの通信機メーカーとは異なり、拡大しつつある状況に向けて兵力増強として「自衛隊に入ろう」的なメッセージを発信しても平和安住志向の社会ゆえか反応はいまいちである。そうは言いつつもそれなりに拡張したメンバーの中には、国家資格ホルダーで高いTOEICの得点を持つ若いエンジニアもいる。しかし必ずしもそうした人材が、人財なのかどうかは別問題でもある。Quad社というタイトルのみに大会社的な印象を持たれて入ってきたという印象もあり、そのタイトルにマッチする人材になるべく努力するということが見えずに単にお客様との通訳サポートに終始していたりもする。お客様さまの言葉をそのまま仲間達に向けた言葉として伝えてしまったりしていることから、メンバーの一員であると認められないばかりか孤立してしまっていたりする。こうなると私も手出しが出来ない、成果が出ないとお客様からも見切りをつけられてしまう。幅広い技術で支えられている中でのサポートという業務のチームワークを活かすことが出来なければ、致し方ない。

要望されている質問の背景や、次の展開などを気配りして先手をうった対応をしていくというのが期待される姿なのだが、こうした気配りするという言葉の意味を、30にならんとしているこのエンジニアに教えなければならないのだろうか。新卒の学生を雇ったわけでもないのだが、彼の経歴からそうしたことを感じ取れなかった私達の人材分析力の欠如がこうした事態を招いている。この現実を前にして私達が学んだ大きな採用への条件とは結婚経験者でなければ雇わないという意見が出始めている。彼女あるいは彼氏を説得できないような人材がお客様の満足するサポートとしての気配りなど出来よう筈も無いのである。我々が少しずつ学んできた失敗の事例のなかで実は一番大きく見落としていたのは、こうした厳しい環境のなかでモチベーションを高く維持しつつ自分でキャッチアップしていける人材なのである。

そんな状況の中で、新たな人材発掘に向けて、門戸を開いてみると、逆に英語が大きな壁となってしまうようだ。英語が出来てもコミュニケーションの成立できない人材もいれば、TOEICの点のみにこだわりを見せるような気持ちに落ち込んでしまうエンジニアも居るのである。少しずつそうした候補者の人たちの気持ちを解きほぐしているというのが現状なのだが、熱き血潮の人材は日本にはいなくなってしまい、かぁっとなる韓国の人たちが伸びていくのは仕方の無い現実なのだろうか。解きほぐした成果かどうかは別にしても、経営トップに噛み付いて自己改革を始めようとしている人たちの気持ちに火をつけたりした成果も出ている。候補者を失ったという近視眼的な考え方ではなくて、端末メーカーとしての発奮につながり元気の良い開発を始めていただければ私達のビジネスにも繋がるはずなので、こうしたことはずっと続けていくべきだと考えている。

長い人生の瞬間の事象であり、航海を続けていく技術者にとって加速度を感じつつの生活を是非志向してもらいたいと思うのである。加速度を感じなくなれば惰性の人生となってしまい、少なくともエンジニアの姿とはいえなくなってしまうと思うのである。大企業に在籍しているからといってベンチャー的な仕事が出来ない訳では決して無いのである。失敗したあとに失敗しないために仕事に取り組まないというような閉塞した流れになってしまっている現代の状況を打破するのは、そうした事態のなかでの中間管理職の人たちが後進たちを認識して正しくナビゲートしていく心のゆとりを提示することでもあるはずだ。加速度を感じなくなった人生に見切りをつけて、新たな職場に転籍していく人もいるだろう、そのまま惰性で優秀な人材を活用できないでいることのほうが重大な損失である。活用できないが確保しておきたいというような気持ちでは会社は決して成功しないと思うのである。

明るい日差しの中で過ごした一週間の期末のイベントの締めくくりは、奥様あるいはご主人を招いての大パーティである。5000人を呼びホテルを借り切って行った夢幻のひと時は夜中の二時に幕をとじた。一年間の忙しい仕事を互いに支えた配偶者の方に仲間を紹介しつつ互いの仕事を讃えている時間は、この時間のために一年間働いているという気がしているほどだ。モチベーションを高めて最大の効率を出していくためには安い費用だともいえるだろう、こんな風景は、少し前の日本の企業でもあったはずなのだが切り捨ててしまってきたのは本当に無駄だったからなのだろうか。仲間との結束、モチベーションといった得がたいものを亡くしてしまい、仲間が転職して移っていくことで心を更になくして行ったりしているようにも見える。生まれ変わるために必要なことは、実は過去に学ぶと良い素材や方法があったのではないのかとつくづく思うのである。

果たして、来年のこのイベントの際に拡大していく情況の続報をお届けできるのかどうかは、まだ未知数なのかも知れない。Quad社のチップ供給能力が世の中の状況を左右したりするような状況が良いのかどうかは別にしても、必要なのであれば必要なだけ対応していくだろうということは今までの右肩上がりのQuad社の状況が示しているといえるだろう。忙しいだろうの一年の成果を、また暑い眩しい日差しの中でランチを摂りながら反省しあうということが続くように今年も一年頑張ろうと思うのである。パーティに出ずに帰国した仲間は台風の渦中に出会い、飛行機が成田に着かなかったり大変だったようである。パーティを楽しんだ人たちは、台風一過の青空から舞い降りてきたかというと台風で機体が米国に回らずに今日はロサンゼルスで足止めを食っていたりもするようだ。幸い選んだノースウェストは遅延のみで夜の内には帰国出来そうな状況である。来年も楽しみにしていきたい。

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