業界独り言 VOL309 マイクロカーネルはマルチOSの夢をみるか

仮想OSといえば、VMwareのようなPC環境で複数OSをインストールして同時にLinuxやXPあるいはBTRONを動作させるといったものが思い浮かぶだろうか。仮想マシン環境の提供が出来れば、さまざまなOSをインストールすることが出来るようになる。複数のOSをインストールしなければならないのは事務用のアプリケーション環境としてのWindowsが蔓延る中で致し方ない状況の技術者の方たちの状況や、デザイナーの方たちのマッキントッシュ環境でのWindowsアプリの必要性などが背景だった。ちょっと似て非なるケースとして携帯電話で最近起こり始めた状況には、通信キャリアが提唱するプラットホーム環境に向けてチップセットベンダーが工夫提供するなかで、高機能OSと呼ばれるLinuxやらSymbian、WindowsCEとチップメーカーが保有するプロトコルスタックとの融合で派生してきている。組み込み端末の中で更にオーバーヘッドを生じさせるような仕組みの投入が必要なのかという意見もあるだろうし、アプリとサービスは分離された実装をすべきであり当然の帰結と結ぶ方もいるだろう。いままで議論にも上がらなかった背景には、チップセット実装としてワンチップに実装することが常識として想定されてこなかったからでもある。

チップとしてワンパッケージかどうかという問題であれば、現在のMCP技術などを駆使してパッケージにスタックして実装することも可能である。個々のチップセットの開発事情を無視してインテグレートして製品として仕上げていく困難さは益々難しくなっていき多額の投資をその過程で必要としてきている。GSMのコアとWCDMAのコアをとりあえず繋ぐというような実装でIPの再利用という形のみでワイヤリングしてチップにすれば完成するというようなものであれば、苦労はないのであるが、システムインテグレータとしての責任を負える技術を持てるのかどうかは課題だろう。最近ではリコンフィギュアブルなハードウェアの登場だとかソフトウェア無線だとか色々な騒音の中で個々の技術を押さえて本当の意味で実装できるメーカーがどれほど居るのかは甚だ疑問である。個々の技術のアイデアをメーカーに提案して端末メーカーの責任でそれらの技術を昇華させていくといったストーリーは現実問題として機能しなくなり、そうした仮定に基づいて進めていく仕事の過程で気づく問題点の中でプロジェクトが頓挫破綻に流されているようだ。落ち着いて基礎研究などするゆとりはないということだろうか。

周囲のこうした状況を反面教師としているのか、まったく気にもしていないのかは別にしてマイクロカーネルをベースにしたシステムコンフィギュアラブルなベースシステムに切り替える取り組みもワンチップ大関の次の流れとして業界に大きなインパクトを与えている。無論、先に述べたような業界事情の中で本質を正しく認識されているのかどうかは甚だ疑問であり、実際に商用化した実績を通じてそれはまた徐々に広がりを見せていくに違いない。ARM9ワンチップでLinuxとシステムとしての無線プロトコルが端末として実用化出来るのだろうか・・・という問いかけでもある。Linuxのみでシステム構築されてきた方々ならぱご存知のようにアプリプロセッサに実装して専用化していく流れでようやく一世代前の端末レベルに追いつこうかというもっさりとした状況でもある。当然、通信キャリアの方々やOEMメーカーの技術トップの方々に対して行うプレゼンテーションに対しても冷ややかな反応であることも否めない。とはいえ、そうした実装成果を商用化していこうというOEMユーザーが居るということであり、実際の彼らの端末が世の中に登場することで、ようやく認知されるということかも知れない。

ある意味で自己矛盾するようなメッセージを発信しているのだろうと自分自身でも感じているのは、Quad社が従来から発してきたバイナリー環境との遊離ではないかという指摘でもある。アプリケーションを効率的に動作させる目的で設計がなされたバイナリー実行環境が作り出したWindows3.1の如き擬似マルチタスク処理はワンチップ大関の称号を得るに至った。しかし横綱を目指して開発しているメーカーにとってみれば不平等な競争だという非難もあるだろうし、それでもワンチップは脅威だということでもある。横綱の称号を得ていくためには、通信キャリアが設定している規定プラットホームの高機能OSの実装が不可欠であり、そうした取り組みに対応するためにQuad社が迎合したのではないかとも思われているようだ。それは誤解だ、Quad社が捉えている端末イメージと日本で繰り広げられている端末競争にはまだ乖離している部分があるのは、軸足を世界においてチップ開発を続けてきているQuad社と、国内専業に徹しようとしている日本メーカーとの相違でもある。最近このままではいけないと認識に立ち、外部チップの利用に踏み出したメーカーはそうしたことを市場で具に感じ取ってきたからでもある。そうした流れの中でQuad社のパテント議論について異論を唱えている向きもあるが、それも大きな責任転嫁としての逃げ口上に見えるのだが・・・。

バイナリー環境が組み込み実装としてのマイクロITRONの上で実現されてきた技術であり、複合するマルチタスク機能をUI側には求めない形での実現でもあった。CPUのリソースがゆとりが出来てUIに回せる時間が十二分に与えられる情況に推移していくなかでバイナリー環境が動作している環境の深化に応じて進化を遂げようとしている。CPUリソースを保障する形で制御が行われるマイクロカーネルのうえで独立して複数のOSが動作しうる環境にメモリ保護も含めて達成できるようになった。バイナリー環境自身も設定した複数のアプリケーションを最高の効率で動作させることを目的としてきた形に移ろうとしている。従来の形が一つのアプリケーションを最高性能で動作させようとしたことからの進化でもある。そうした機能進化を説明すると、多くの通信キャリアの技術者や、現在Linuxなどで標準化してきたトップエンジニアの方たちにも納得していただけるようだ。実務として現在保有しているアプリケーションを如何に移行させうるのかという点に視点論点が移ってきたのが論拠でもある。携帯電話あるいは端末としてのOSの構成としてこうした柔軟かつ効率的な仕組みを提供できるように検討研究がなされているのは顧客からのフィードバックに根ざした研究成果でもある。

Quad社に最近増えてきたあるOEMメーカー出身者の特有な点は果たしたいテーマがQuad社では出来るからということらしい。ソフトウェア開発をしたいと夢見て前の会社に転職したK君は、ハードウェアエンジニアとして実はQuad社のカスタマー先からの転職であった。転職したからといって、そのまま仕事が出来るという仕組みにならないのは日本では多く見られることのようだが、3G標準化活動に向けた仕事を取り組むようになっていった。システムエンジニアとしてプロトコルから端末サービスまでが語ることが出来るような優秀な人材でもある。そうした人材が評価されていたのは実は標準化活動をする中で、委員会に出席していたQuad社からの参加メンバーであったりする。そんな流れから、K君はQuad社から期待される人材として標準化活動の委員としてQuad社から参画活動するようになっている。彼の活動成果がタイムリーに活かされていく流れが彼をQuad社に転職するにいたった理由でもあるだろうし、なによりもサンディエゴからの指名でもあった。Quad社という社風がそうさせるのかどうかは分からないが、現場に責任を与えていることの裏返しでもあるだろう、現場が要求する人材配置に対して与えられる現場の権限は高いものの、責任を果たすための要求も高くなるのは仕方が無いことでもある。

マルチOSを稼動させようとしたり、進んだマルチメディア技術を顧客に提供していくためにより実践的なエンジニアを配置して高いサービスを実現していこうという流れは真摯な採用活動・教育活動を実践していくという最近のQuad社の世界的な社風となっている。Quad社が期待する人材として認定を受けた技術者の方々がドライとはいわないまでも、自分自身を大切にするということよりも仲間との関係といったことに重きをおきがちな傾向は国際的にも理解しがたい傾向である。飛ぶ鳥後を濁さずという諺を第一義に考えてしまいがちなのだが、破綻しかかっている組織の上ではそうした諺自身が組織に当てはまらなくなっているということに気づかないようだ。信じがたいことではあるが、ある会社の組織縮小の流れの中で人事担当の要職の方からのコメントで身請け先として良い人材を活用してあげてほしいと言われたりするような状況もある。既にそうした要職の方すらも組織改変の中で、転籍を命ぜられていたりするようだ。現場に責任が与えられずにトップ判断で振り回されている状況には最前線の現場の方こそが立ち上がりアクションを取っていくべき時期に突入しているということを気付いてほしいものである。

マルチOSのメッセージが顧客先に届き始めた成果として、Quad社の果たすべき責任範囲が広がり、より技術者としてやりがいのある本質的な仕事が膨らんできている。こうしたテーマを挑戦的で楽しいと考えられるような人材を探してPingしているのだが、成果に繋がるのは往々にして自らの判断で自立しようとして門戸を叩くエンジニアだったりもする。といって高い我々の要請に応えられるエンジニアかどうかは別問題であり、儒教的価値観なのか自立心に欠けるのか最近の韓流に涙するような傾向から大国に巻かれることをよしとするのが最近の若者なのだろうか。飛び込んでいってわが意の如くに御していきたいというような前向きな狩猟民族のDNAを持つものがいると思うのだが、いかがなものだろうか。お客様の反響が大きくなり米国でのミーティングが増えてきて飛び回っている実情のなかで、PingだけではなくPollingも含めて多様なメソッドを適用しないとDNAのハートビートを感じ取ることが出来ないのだろうと思っている。明日は、東京と大阪でミーティングだし、来週は週末を挟んで米国でお客様トップらとの未来絵図を描きつつのミーティングでもある。私のPingはスパムメールだと思われているのかもしれない。

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