業界独り言 VOL280 最新流行の開発スタイルとは

携帯電話の開発スタイルが大きく揺れている。開発プロセスがどうしたというレベルではなくて、ビジネスモデル自身が揺れ動いているようだ。唯我独尊というスタイルが日本の組み込みのお家芸とでもいうのがTRONをはじめとする、20世紀に到達した一つのビジネスモデルであった。各社が個々にオリジナルアーキテクチャで似て非なる端末を、通信事業者の仕様というスタンダードに合わせて物づくりを進めてきた。通信端末メーカー同士の競争というよりも、通信キャリア間の競争によるサービスやフィーチャーの競争といったものが実体だったので国内の端末事情だけで見たシェアと国外への輸出までを見たシェアでは異なった姿が透けて見えてくる。国際的に見ても唯我独尊を地で行く北欧メーカーによる覇権も陰りを見せてきた。飽和してきたニーズの先に広がって見えるのは人口としてのニーズが予測しやすい中国なのだろう。

北京の地で見た、高度な都市を目指している街づくりとは裏腹なスモッグや整備不良の自動車の氾濫には、危うい中国の薄さが見えているようだ。海外メーカーとの提携による現地生産された自動車群が、国としての環境などに気を配らないままに成長のみを目指してきた流れの果てがこうした現状なのだろう。どこかで見た風景ではある。21世紀を迎えて、夢の鉄腕アトムは登場せずにペットの犬が登場したのが現実でもある。悪夢のようなテロを始めたのは日本だったりもするのは、流行の最先端をリードしているので日本をウォッチしようというのが会社としての方針に掲げられるのも無理からぬ事でもある。ただし、理解不能な文化ギャップの点などからも、その隙間を埋めていくための仕事には大変な努力が必要とされるのだろう。チームとしての仕事の推進、事業部としての中期戦略、会社としての長期戦略といったレベルでの判断が求められる中でチームとしての仕事や事業部としてのビジネスが達せられていくのである。

携帯電話の開発スタイルを具現化あるいは選択していく上での課題は、通信事業者が抱えているビジネスとしてのスケジュールを達成していくことと端末納入を果たすメーカーでの開発リソースや選択したプラットホームでのアプリケーション開発や流通性の容易さ、モデム機能としての完成度などなど多岐に亘っている。中々、全てを満たす回答を用意できるところは少ない。色々な誤解の上に立脚して始まった製品開発が途上で暗礁に乗り上げることもままありトップ判断のみで始まった結果といった場合には、まあ良いのであるがそうした状況を経験したうえで現場での判断を仰ぐようになってきた会社などでは現場のマネージャーレベルにも重圧がかかってきているようである。ビジネスの戦場が国内の飽和した状況から海外戦略に移っている今となっては、どこかのトレンドを作り追いかけていくという能天気な図式に追従していても致し方ないということでもある。

国内通信キャリアや端末機器メーカーといった携帯ビジネス業界をターゲットにした展示会が今年もやってきた。経営トップが交代したり大規模なリストラを敢行して再生を掛けようというようなキャリアや端末メーカーなどがあることもあるのかバブリーな雰囲気は無くなり堅実な路線になりつつあるという見方もあるという。そんな話と会期前半の人出などから首肯していたのだが、最終日の金曜日は給料日ということもあり賑やかな人出となったのは、忙しさなどの反映と給与日などの反動などが出た結果からなのかも知れない。開発スタイルの狭間で忙殺されている中で最終日の展示会要員として駆り出されてみた印象は聞いていた話とは違っているように映った。もともとQuad社が展示会に出ている意義そのものが何なのかという聞いてはいけない不文律があるようにも思えるのだが、展示会で展示したからといって売り上げや商談がまとまるような性質の会社ではないのである。

まあ一説によれば、日本法人の社長が業界時事放談のように切り込む業界への提言をイベントとして受け取ってもらえる場所であり、その見返りとしてブースの場所を借り受けているというのが一つの解釈としてまことしやかに流布されていたりもする。多くの訪問者の方々は、Quad社の取り組んでいる技術の概観をそこで知り、次のステップに行くという本当の私達にとってのターゲットではなくて通信キャリア自身の会社の方達にご自身の会社で扱われている技術を正しく理解していただくといった流れだったりもする。コンテンツプロバイダーの方達にまでなるともっといい加減となり、30fpsのQVGAの画像技術というハードソリューションと15fpsのQCIFでのQXVといった自社のソフトウェアソリューションの画面サイズと名前とを混同して同様なものとして理解されていたりと、まぁ千差万別である。三日間の会期中にコンテンツプロバイダーに向けたバイナリ環境の技術メッセージなども活況を呈していた。

知己や先輩の方々なども多く来場いただきご挨拶を差し上げることも出来なかった大先輩もいらっしゃった。バイナリー環境についてのメッセージに強く賛同された大先輩からは同様なプロセスをPHSの上で実現しようとしているんだという積極的な支援の言葉も頂いたりして大変恐縮もしている。金曜日一日の出席ではあったものの良い機会を頂いたと感謝もしている。いつもメールで独り言を差し上げている昔の仲間も製品出荷が出来たので一段落しましたのでといって挨拶に寄ってくれた。この会社側に加わってから五度目の展示会となり、当時から考えると会期中アテンドしなければならなかった時代からみると大きな発展を遂げてきているなと改めて感じもするのである。自分の仕事を次の段階に進めていくといったことを考えて行こうということなどが最近の開発支援というサポートの仕事の変質あるいは変容といったものから感じてきているのも事実でもある。

ちょっと変わったお客さんも来ていた。携帯電話で行う放送システムについての特許を取得したという御仁である。デジタルTVのモバイル放送などの向こうを張って効率の良いデータ放送の仕組みを実現するのだというのが主張らしくいわゆるコンサルタントとしての事業と特許取得とを進めている御仁であった。ままそうした御仁にとっては業界の仕組みがとうなっているのかという理解が欠如したりしているし、彼が主張するところの技術の骨子については業界側の理解が欠如していることもあって中々思うような展開にならないということらしい。彼が取得したという特許番号はP3504584なるものであり興味のある方は取り寄せられて参照されるとよいだろう。少なくとも第三位の通信キャリアが運用しているデータプッシュのサービスの仕方は抵触しそうな内容である。彼としてはシェア18%の相手をする気はさらさら無くてCDMA2000/WCDMAの上でデジタル放送よりも効率的に無料コンテンツを放送したいという要望のようだ。

ビジネスを開発したいという目的からすれば、通信事業者が享受する利益についての説得などの説明があるべきであるが、学者さんゆえの彼の認識では皆が同様のコンテンツ取得を行っていることの非効率さを是正したいというのが理論的な話であり、これでは通信事業者が考えるコンテンツを沢山アクセスしてほしいという意図や売り上げが減るといった少し前の時代の話からしても取り合えないという話となるようだ。最近ではパケット専用のシステムを構築する中で放送機能までもも視野にいれたデータ通信規格を論じているCDMA2000などやWCDMAからのHSDPAなどでも、従来から国営放送株式会社などジョイントしてきたシステムまでも蔑ろにして反旗を翻すこともなども出来ないという事情などもある。すでにいくつもの通信キャリアなどとの話し合いをしてきた結果らしく彼としては、どうも国策として推進している事業に反旗を翻すことは現状の通信キャリアは出来ないらしいということまでは認識をされてはいるようだった。

もっと前向きに国際特許を取得して海外にまで打って出るということなどをすれば、国策などとのコンフリクトもなく逆に通信規格に盛り込んで逆上陸とった手もあるのだろうが、そこまでの戦略はないようである。まあ彼が記述した学者から見たcdmaとTDMAの双方に適用可能と書かれている特許内容の文章を読むと、CDMA本陣の会社としては彼が言及しようとしていることの本質が理解されないだろうなということと、そうした非効率さを逆手にとって改善した1Xevdoのシステムなどや非同期でシステムを構築しているWCDMAといった世界からみると彼の特許自身が伝えている周波数という概念が論点となり、おそらく特許としてはWCDMAには不適合ということになるだろうし、EVDOでは採用しない技術となるだろう。まあ孫さんたちのビジネス抗争の中でもまれていくことが唯一の生きる道が、ほそぼそとTDMAシステムで構築運用されている通信キャリアからパテント費用を期間限定で得ることしか出来ないのだろうと思いもする。

特許で生き抜こうという彼の思いを遂げるには、ちょっと現在の流れを読み違えているによもみえるものの、彼の考える学問解釈としての戦いがまだ続くのだろう。バイナリ開発環境としてのスタンスが確立しようとしている流れから、時代からの要請として全てのアプリケーションをバイナリメソッドで開発できるようにという動きが活発化してきた。ゲームやアクセサリをベースに進化してきたメソッドの更なる深化が求められている。ツール提供を無償で行いAPI開示のみでやってきたビジネスにも転機が訪れようとしているのは、周囲からの要請としてのオープンソースの技術やら、有償でサポート要員までも提供するといったビジネスなどを提供している技術達との対抗策を求められるからでもある。「幾ら払えば公開してくれるんですか」と札びらを切るようなことを申し出られると「一つの契約の範囲で出来ることを出来るだけやります。お客様の端末開発を最後までサポートします。」といったことを社是として取り組んでいる会社にとっては不協和音となる。

全てお客様の要請に応えられる状況にしておくという目標に到達させようという努力をしてはいるものの、欧州社会から嫌われてきたCDMAの覇者という烙印を消し去るまでには、まだまだ多くの努力が必要となっている。幾つかのモデム開発での努力については実りを迎えてきており、最近では新規参入の実績のないチップセットメーカーの技術採用については通信キャリア自身から端末機メーカーに開発期間からみての指導などが入るような時代に突入してるのはそうした積み重ねの結果でもあるだろう。モデム技術を追求して端末構成技術としての低価格マルチメディア対応端末が構成できるソリューションとしての技術提示をしてみてもアプリケーションプロセッサに慣れてしまったお客様にしてみれば当たり前のことを凄いことと捉えるには至らないしワンチップで行うことの凄さを価格面の次に、開発スタイルとしてもasisで使える凄い技術を普通に提供していくことに向けた努力をしていくことが今の課題である。

ともあれ一式ソフトも開発環境も揃えてPC上で開発可能な環境を提示してあげなければ、開発費用の観点からインドや中国で行おうとしているソフトウェア開発の効率化という観点が活かされないということにもなる。まずはハード的にも安くて、ソフトウェア開発の費用としても超安価に仕上がるというとてつもないビジネスモデルを要求されているのが、お客様からの求められている開発プロセスというのか端末ビジネスの実情ともいえるのである。「一式揃えて持ってきてね」という台詞がまかり通る時代になりつつあるようで、仕上げの作業は中国インドで実施するとなると果たして日本では企画のみに終始するというユニクロのような時代になってしまっているのかも知れない。幸いにして北京の午後の会議などには関西空港から行けば一泊二日で参加が可能となっているのも事実である。月曜にお客様Aをたずねて大阪入りして、火曜の朝には関西空港から北京入りしてお客様Bとのデザインレビューを実施して水曜の朝には中国事務所から社内電話会議に参加して午後の飛行機で成田に帰ってくるというような時代なのである。