業界独り言 VOL361 何を新年に思うか

か つてないような世界同時不況の中の歳末・年明けとなった。今年は、きっと公務員を始まりとするワークシェアにでもなるか、卒業しても就職先のない学生が、 ずるずると進学するといったような状況にでもなるのだろう。右も左もマスターやドクターだらけになっても結局のところ仕事がないのであれば、この国にいる 必要がなくなりそうだ。自分たちの生活レベルの切り下げを受け入れられるような状況にするためにもセーフティネットを張り巡らす必要があるのだろう。携帯 業界のソフトウェア開発会社も破たん撤退が音を立てている。あと半年もすると、派遣社員でない人たちのレイオフというよりも会社倒産が続いてしまうのは致 し方ない。

土建業界のような図式で人足を販売してきたような状況の会社は当然のこととして、業界のデファクトとしてスイートパッケージだとタカを括っている人 たちもロボットの登場で追いやられてしまう。アイデア一本で、ぷよぷよで財をなしたような時代に戻りそうな予感もある。クラウドの時代の中で、4Gに向け て加速する一方であり、従来の図式で開発してきた組み込みの世界に終焉が訪れるのか新たなアーキテクチャで刷新される時代に入りつつある。この予感を感じ 取れない人や会社は世代交代に呑まれていくのは世の常としていたしかたない。

自らの手を汚さずに、仮想空間の世界を使って実世界のシミュレーションをしてスパゲッティをスマートに食べたいという人がいるようだ。仮想マシンの うたい文句に踊らされて、最先端のチップセットで複合で動作している込み入ったシステム環境が仮想マシンで再現できると信じているのであるのなら、私が暮 らしてきた30年間の世界の中の仮想空間の章をその人物を称えることで引退することにしよう。先日、母校で若い学生に問うたテーマに仮数で二桁程度しか取 れない計算尺で世の中を操ってきた時代の産業立国日本というものがあったが、位どりも出来ないでこうしたソフトウェア開発に坐しているのだとすると日本の 将来は真っ暗である。

シミュレーションで出来ることは、ある。それは確かに存在する。しかし、実マシンでの挙動のふるまいの範囲に踏み込まずに最適化もなさないままに道具とし てのプロセッサモデルを複数持ちだして、共同運行してマルチプロセッサをダイナミッククロックで動作させたいということをこともなげにおっしゃるのには反 論する気すら失せたのである。まあ、そうしてデバッグ検知したい内容はといえば、自分たちの開発したソフトウェアのメモリーリークにもとずくシステム不穏 動作をいち早く検知したいのだという。このギャップはいったい誰が責任をとって教えてくれるのだろうか。

今の世の中の主流としては、ユーザーモードに移行してアプリケーション同士が干渉し合わずにバグがあれば、アプリがしんでしまうというiPhone やノキアな世界か、仮想マシンでもともとアプリを開発動作させるというイケメンロボットの世界かということになっている。ワンチップでプリサイスに積み上 げた箱根細工の世界で世の中を驚かせてきたバイナリ環境もあるのだが、見た目に走って中身を顧みないままでは、結果として花開かずに却って無駄足を踏んで しまい、いつまでもソフトウェアが安定しないという最近の世の中の状況では許されないものになっていはしないだろうか。

そんな開発スタイルを変えずに唯我独尊で、シミュレーション環境として精緻な検知機構を設けて解決したいというのは虫がよすぎるというよりも、先の 計算尺でいうところの指数計算が出来ない性能予測が出来ないということを端的に表していると思う。なかなか見つからないバグを予兆で捕まえたいというので あるが、はたして見過ごしてきたバグが発生するまでに様々なケースの試験を実機で行うような開発スタイルでは、いくらツールがあってもその20db以上の 時間を費やしてようやく検知に至るというくらいのギャップをご理解いただくべきなのだが。

実機とシミュレータのうまい連携というものがあるのかも知れない。そのことは、私の30年あまりのソフトウェア開発の総決算としてアイデアを追いか けるべきテーマであるのだが。はたして、このお客様が、知り合いの出来あいの道具を、そのEDAベンダーを垂らしこんでみたところで自らが設計するでもな い大規模なシステムLSIに対して適用するための足がかりにすらならない。まあ、少しでも前向きにとらえて自らの中に昇華して解決策にしていくにしても、 まずは正しい開発方法論にかじ取りをすることを始めないとワークシェアするにしても、もとよりそんな無駄な仕事に開発をすること自体が間違っているという ことになるだろう。

LTEや4Gを目前にしてあと2年ほどで、必要な基盤ソフトウェア環境の刷新が必要ならば取り組む良い時期である。今までのような馬鹿話や力ずくで 解決できる時代はなくなってしまった。つくづくソフトウェアエンジニアにとっては良い時代が到来したといえる。右から左に仕様書でものづくりをしているよ うな時代ではなくなった。さて、そんな時代に陥っていることを若い学生は知るべきだろうし、教える先生方も認識を改めてもらう必要があるのは当然である。